入力2019.08.18(11:00)修正2019.08.18(11:01)
KBSのファクトチェックチームは最近、最高裁が強制動員被害者への賠償責任を認定した判決について、2回のファクトチェック報道を通じて伝えました。第2次世界大戦の終戦後に成立した戦勝国と敗戦国間の条約である「サンフランシスコ条約」により、韓国の強制動員請求権が消滅したという主張を検証した内容です。
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2018年の最高裁判決論議(?)が、2005年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府当時の官民共同委員会へ、また1965年の韓日請求権協定へ、最近ではまた1951年の「サンフランシスコ講和条約」へまで遡っている状況です。放送での報道に十分に盛り込めなかった内容を含む、関連ファクトチェック総合版を整理してみます。
日本の強制動員被害者への賠償問題から始まった日本の貿易挑発、ところが最近では「米国が日本の立場を支持している」という趣旨の日本のマスコミ報道が続いています。
8月11日、『毎日新聞』は太平洋戦争の米軍捕虜が2000年代初め、日本企業を相手に米国裁判所に強制労働損害賠償を請求する訴訟が相次いだと伝えました。ところが当時、米国国務省がサンフランシスコ講和条約で請求権を放棄したとしながら、自国民である原告側の請求に反対する意見書を裁判所に提出したというのです。さらに米国政府は最近、韓国の最高裁判決の影響により米軍捕虜が再び賠償請求に乗り出すことを懸念しているともしました。
14日に『読売新聞』も、米国が最近の日韓関係を巡り、日本政府の立場に「理解を表明した」と報道しました。日本の河野太郎外相が米国のマイク・ポンペオ国務長官と対話しながら「サンフランシスコ講和条約を覆してはならない」と説明した際、ポンペオ長官が「わかっている」と答えたというのです。
2つの記事に共通して登場する名前は「サンフランシスコ条約」です。「韓国最高裁で太平洋戦争の賠償に対する個人請求権を認めることになれば、サンフランシスコ条約の根幹が揺さぶられる」というのが、2つの記事が「米国の立場」だとした内容です。サンフランシスコ条約から見てみましょう。
太平洋戦争の敗戦国である日本と戦勝国である「49の連合国」が1951年に結んだ戦後処理のための条約です。「対日講和条約(Treaty of Peace with Japan)」とも呼ばれます。この条約以降の戦後秩序を「サンフランシスコ体制」と呼んでいます。
米国と英国が主導したこの条約の主な議題は、日本の主権回復と日本が侵略した国々に対する戦争賠償問題でした。
戦争被害の「個人請求権」に関する内容は、この条約の第14条にあります。14条は、連合国が日本に対する財産権をどこまで行使できるかを規定し、末尾でこう釘を刺しました。
「連合国のすべての賠償請求権と、戦争の遂行過程で日本とその国民が行ったすべての行動から発生した連合国及びその国民の他の請求権、そして占領による直接的な軍事的費用に関する連合国の請求権を放棄する。 」
"Except as otherwise provided in the present Treaty, the Allied Powers waive all reparations claims of the Allied Powers, other claims of the Allied Powers and theri nationals arising out of any actions taken by Japan and its nationals in the course of the prosecutions of the war, and claims of the Allied Powers for direct military costs of occupation."
太平洋戦争の戦勝国である連合国に属する49カ国とその国民である個人は、今後、日本に対してこれ以上請求権を行使しないと整理したものです。
米国裁判所が自国民の強制動員被害者の訴えを棄却した理由も、まさにこの14条のためです。米国の強制動員被害者訴訟のうち、代表的なものが「ジェームズ・キング事件 [In re World War II Era Japanese Forced Labor Litigation 114 F. Supp。2d 939(ND Cal. 2000)]」です。
太平洋戦争に参加した米軍兵士、ジェームズ・キングが、日本に捕虜として連行された後、戦犯企業に強制動員されたことに対する損害賠償を米国裁判所に請求しましたが、棄却されました。サンフランシスコ条約で日本に個人請求権をこれ以上行使しないと整理したので、「終わった」というのが米国裁判所の判断です。
米国のこの判決は、一見すると韓国の強制動員被害訴訟に類似しているように見えます。ところが、韓国の最高裁は強制動員被害者に軍配を上げたのです。なぜでしょうか?
米国裁判所が米軍兵士個人の請求権棄却理由としたサンフランシスコ条約第14条は、韓国には適用されません。
韓国は、太平洋戦争当時、光復軍活動などで連合国側に立っていたのに、サンフランシスコ条約の当事者である「戦勝国リスト」に名を上げられませんでした。当時、日本とは関係なかったポーランドなど実に49カ国が署名国に名を上げましたが、韓国の名はありませんでした。
背景説明を付け加えるなら、サンフランシスコ条約の草案では、韓国が署名国に名を上げたことが知られています。
「(米国)国務省は、第6次草案(1949.12.29)で韓国を交渉国及び署名国リストに載せた。これは、韓国に対する米国の介入を前提に、“韓国の威信”に伴う米国の戦略的考慮だった。」
「1949年12月29日、米国国務省が草案と一緒に作成した”日本との平和条約草案についての論評”も、韓国には数十年間の抗日抵抗、戦闘の記録があるとし、講和条約の署名国になるべき理由を記した」(『独島1947』、チョン・ビョンジュン著、トルベゲ、2010)
しかし、条約草案がくつがえり、韓国の交戦国としての地位は最終的に剥奪されました。当時、日本の吉田茂内閣が、韓国が戦勝国に名を上げれば日本国内の韓国民が財産権を行使をすることを懸念し、米国側に執拗に韓国を排除するよう要求したという話もあります。いずれにせよ冷戦体制突入後、共産主義陣営への対抗が急務だった米国は、「日米安保同盟」を締結するために日本側の主張を受け入れ、最終的に韓国を署名国から除外する決定を下しました。
まとめると、戦後、米国を含む49カ国は日本から有形無形の戦争被害賠償を受けました。「戦勝国」の資格でした。その後、賠償を「放棄」したサンフランシスコ条約第14条は、戦勝国に含まれなかった韓国とは無関係です。
韓国のような植民地国の財産権問題は、サンフランシスコ条約第4条に整理されています。
「日本の統治から離脱した地域の財産権請求権問題は、該当国の政府と日本政府が特別約定で処理する」
"(a) Subject to the provisions of paragraph (b) of this Article, the disposition of property of Japan and of its nationals in the areas referred to in Article 2, and their claims, including debts, against the authorities presently administering such areas and the residents (including juridical persons) thereof, and the disposition in Japan of property of such authorities and residents, and of claims, including ; debts, of such authorities and residents against. Japan and its nationals, shall be the subject of special arrangements between Japan and such authorities. The property of any of the Allied Powers or its nationals in the areas referred to in Article 2 shall, in so far as this has not already been done, be returned by the ad ministering authority in the condition in which it now exists.",
植民地だった韓国と日本は「別途に」約定を結んで処理せよと整理したものです。この条項が、その後1965年に締結した日韓基本条約の根拠になります。
1965年に朴正煕(パク・チョンヒ)政権が日本と日韓基本条約を結ぶまで、交渉期間が10年を超えて遅々として進まなかったのは、日本の植民地支配の違法性を前提とする「賠償問題」のためでした。日本は植民地支配の違法性を認めずに最後まで対抗し、結局朴正煕政府は日本から「賠償責任」という明示的な表現を最後まで引き出せませんでした。植民地支配に対する賠償問題が日韓協定でも整理されないままに数十年が経ち、韓国の強制動員被害者の個人訴訟が開始され、昨年遂に最高裁は彼らの個人請求権を最終的に認定しました。
さて、今や判断することができると思います。読売や毎日新聞の内容のように、韓国最高裁が日本に強制動員の個人請求権を認めたのは、戦後の「サンフランシスコ秩序」の根幹を揺るがすことなのでしょうか?
そうではありません。当時、韓国が戦勝国に名を上げられなかったのは残念なことですが、逆説的に戦勝国ではないため、韓国は、日本に対する個人請求権を放棄することにしたサンフランシスコ条約から自由であり得ます。米国裁判所の個人請求権棄却判決も、韓国とは無関係なものとなります。
それなら、毎日新聞の内容のように、韓国の最高裁判決の影響により、米軍捕虜が再び賠償請求に乗り出すことができるでしょうか? 訴訟はできるでしょうが、勝訴の可能性は低いです。「判例法」とも呼ばれる英米法系において判例が持つ意味は、韓国のような大陸法系においてよりもはるかに大きいです。先に紹介した「ジェームズ・キング判決」のように、戦後秩序を規定したサンフランシスコ条約を根拠に請求権を棄却した判例が残っている以上、当時の米軍捕虜が日本に対する賠償請求で勝訴する可能性は非常に低いです。
釜山地裁のキム・テギュ部長判事は先月、”日本の強制動員賠償に対する韓国の最高裁判決が間違っている”という趣旨の文をFacebookに投稿しました。A4用紙26枚分のこの文の末尾で「米国でも(韓国と)似た事案について原告の請求を排斥した事例がある」とし「ジェームズ・キング判決」を紹介します。それから判決文の内容の一部を引用します。「経済的な面では原告が受けた苦痛に対する補償が否定され、捕虜だった人々や計り知れない生存者たちも同じだ。しかし彼ら自身とその子孫たちが自由でより平和な世界に生きていくという無限の補償は、そのような借りを返すだけのものがある」という内容です。韓国とアメリカの違いは省略したまま、米国裁判所がもっともらしく付け加えた内容を引用したのです。キム判事は「(私たちと)似ている米国の判例」だと重ねて強調します。
朝鮮日報のソン・オジョン社会部長は去る7日、自らのコラムにキム判事が引用したジェームズ・キングの判決と文を引用しながら、「先代の苦難は後代の繁栄で十分に補償された」と再解釈します。それとともに「日韓現代史によく当てはまる名句だと思った」と語ります。
どちらの記事も「韓国はなぜ米国のように過去の歴史を “クール(cool)に” 整理できず、後代の繁栄に進めないのか」という指摘をしているわけです。
明らかに韓国と米国の「戦争請求権」の根拠はまったく異なります。それにもかかわらず「似ている」「よく当てはまる」と紹介するのは適切ではありません。単純な比較は明白な誤りです。
これに関連し、韓国学中央研究院のチョン・ウヨン教授は「米国の場合と異なり、韓国ではサンフランシスコ条約は国内法的地位を持ち得ない」と述べています。また「サンフランシスコ条約以降に結ばれた1965年の日韓基本条約で“賠償責任”という言葉を使っていないことが、最近の日韓葛藤の根本的な問題であり、現在の日韓関係を米国の事例と比較するのは正しくない」と指摘しました。
慶熙(キョンヒ)大学未来文明院のキム・ミンウン教授は「サンフランシスコ条約が戦勝国の戦争賠償放棄を前提に成立したという事実を否定したまま、米国裁判所の判決における太平洋戦争被害者訴訟棄却を日韓現代史のモデルであるように打ち出している」とし「戦勝国と敗戦国の関係から生まれた問題と、植民地支配の違法な被害を解決する問題を、同じ次元に置いて見るという、歴史的思惟の崩壊がこの論理に含まれている」と明らかにしました。
シン・ソンミン記者 freshmin@kbs.co.kr
記事出典:KBSニュース