文在寅大統領は7月6日、ベルリン市役所のベアホールで開かれたケルバー財団招請演説で、朝鮮半島の平和構想を明らかにしました。北朝鮮のミサイル挑発で緊張が漂う中に語られたこの日の発言は「新ベルリン宣言」といわれ、世界のメディアの注目を浴びました。
↓以下は、この演説の全文和訳です。↓
尊敬するドイツ国民の皆さん、故国にいる国民の皆さん、ケルバー財団のハウルゼン理事とモドロウ元東ドイツ首相をはじめとする内外貴賓の皆さん。
はじめに、冷戦と分断を超えて統一を成し遂げ、その力でヨーロッパの統合と国際平和をリードしているドイツとドイツ国民に限りない敬意を表します。今日、この場を設けてくださったドイツ政府とケルバー財団にも感謝いたします。
また、先日亡くなった故ヘルムート・コール首相のご家族とドイツ国民に深い哀悼と慰労の意を表します。大韓民国は、冷戦期の厳しい環境にもかかわらず、積極的かつ能動的な外交によってドイツ統一とヨーロッパ統合を主導したヘルムート・コール首相の偉大な業績を記憶するでしょう。
親愛なる内外貴賓の皆さん。
ここベルリンは、今から17年前、韓国の金大中大統領が南北の和解・協力の礎となる「ベルリン宣言」を発表した場所です。ここアルテス・シュタットハウス(Altes Stadhaus)は、ドイツ統一条約の交渉が行われた歴史的な現場です。私は今日、ベルリンの教訓が息づくこの場で、大韓民国新政府の朝鮮半島平和構想についてお話ししたいと思います。
内外貴賓の皆さん。
ドイツ統一の経験は、地球上最後の分断国家として残された私たちに、統一への希望と同時に私たちが進むべき方向を教えてくれます。
それはまず、統一に至るプロセスの重要性です。
ドイツの統一は、相互尊重に基づいた平和と協力のプロセスがいかに重要かを教えてくれました。ドイツの国民は、このプロセスで、蓄積された信頼をもとに自ら統一を決定することができました。東西ドイツの市民たちは、様々な分野で交流、協力しました。そして双方の政府は、これを制度的に保障しました。非政治的な民間交流が、政治理念のかんぬきを外し、双方の国民の閉ざされた心を開いていきました。
東方政策が20年以上続けられたという事実も重要です。
政権が変わっても一貫した政策が可能だったのは、国民の支持に加え、国際社会の協力がそのベースにあったからです。ドイツは、ヨーロッパに平和秩序が造成されれば、その枠組みの中でドイツの統一も可能だと考えました。国際社会と歩調を合わせ、時には国際社会を説得して、堅牢な安保を確保し、東西ドイツ関係に対する支持を確保しました。
ヴィリー・ブラント首相が最初の一歩を踏み出したドイツ統一のプロセスは、別の政党であるヘルムート・コール首相に至って完成されました。私は、朝鮮半島の平和と共同繁栄のためにも、同様に、超党派的な協力が続いていくべきだと信じます。
内外貴賓の皆さん。
朝鮮半島の平和と統一を願う私たちの国民にとって、ベルリンは、金大中大統領の「ベルリン宣言」とともに記憶されています。
金大中大統領のベルリン宣言は、2000年の第1回南北首脳会談へと続き、分断と戦争以後、60年あまりにわたって対立し葛藤してきた南と北が、和解と協力の道へと進む大転換をもたらしました。
これに続いて盧武鉉大統領は、2007年の第2回南北首脳会談を通じ、南北関係の発展と平和・繁栄のための道しるべを作りました。
金大中大統領と盧武鉉大統領は、朝鮮半島に平和を定着させるための国際協力も推進しました。その期間中に6カ国協議は、北朝鮮核問題の解決原則と方向を盛り込んだ9・19声明と2・13合意を採択しました。米朝関係、日朝関係にも進展がありました。
私は先立つ二つの政府の努力を継承すると同時に、大韓民国のより主導的な役割を通じ、朝鮮半島に平和体制を構築するための大胆な旅を始めたいと思います。
尊敬する内外貴賓の皆さん。
朝鮮半島が直面している最大の課題は、北朝鮮の核問題です。北朝鮮は核とミサイル挑発を続け、朝鮮半島と北東アジア、ひいては世界の平和を脅かしています。
とりわけ、まさに二日前にあったミサイル挑発にはとても失望しましたし、非常に間違った選択です。国連安保理決議に明らかに違反しているばかりか、国際社会の度重なる警告を真っ向から無視したものです。何よりも、米韓首脳会談を通じてせっかく対話の道を用意した韓国政府としては、より深い遺憾を感じざるを得ません。
北朝鮮の今回の選択は無謀です。国際社会の制裁を自ら招きました。北朝鮮が挑発を止め、非核化の意志を示すなら、国際社会の支持と協力を得るために先頭に立って助けようという韓国政府の意志を試しています。
私は、北朝鮮が二度と引き返せない橋を渡らないことを願います。北朝鮮は、核とミサイル開発を放棄し、国際社会と協力できる道を模索しなければなりません。完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化は、国際社会の一致した要求であり、朝鮮半島の平和のための絶対条件です。朝鮮半島の非核化のための決断だけが、北朝鮮の安全を保障する道だという意味です。
故に私は、まさに今こそ、北朝鮮が正しい選択をできる最後のチャンスであり、最も良い時期だという点を強調します。ますます高まる軍事的緊張の悪循環が限界に達した今、対話の必要性がこれまでになく切実になったからです。
中断されていた朝鮮半島の平和プロセスを再始動できる基本的な条件が設けられた、という点も重要です。 最近、米韓両国は、制裁は外交的手段であり、平和的な方法で朝鮮半島の非核化を達成するという大枠で合意しました。北朝鮮に対し敵視政策を保持していないという事実を闡明しました。北朝鮮の選択に応じ、国際社会が一致して明るい未来を提供することを確認しました。
米韓両国はまた、当面の朝鮮半島危機を打開するためにも、南北関係の改善が重要である点で認識を同じくしました。トランプ大統領は、朝鮮半島の平和統一環境を造成するにあたり、大韓民国の主導的役割を支持し、南北対話を再開しようとする私の構想を支持しました。中国の習近平主席とも同じ共感を確認しました。
今、北朝鮮の決定だけが残っています。対話の場に出てくることも、苦労して設けられた対話のチャンスを蹴ることも、ひとえに北朝鮮が選択することです。しかし、万一北朝鮮が核の挑発を中断しないなら、さらに強力な制裁と圧迫以外には選択の余地がありません。朝鮮半島の平和と北朝鮮の安全を保障することができなくなります。
私は、朝鮮半島の平和のための韓国政府と国際社会の意志を、北朝鮮が非常に重大かつ喫緊の信号として受け入れることを期待し、促します。
内外貴賓の皆さん。
次に、朝鮮半島の冷戦構造を解体し、恒久的な平和定着を導くための、韓国政府の政策方針についてお話しいたします。
第一に、私たちが求めているのは、ひたすら平和です。平和な朝鮮半島は、核と戦争の脅威のない朝鮮半島です。南と北がお互いを認めて尊重し、共に豊かに暮らす朝鮮半島です。
私たちはすでに、平和な朝鮮半島へと進む道を知っています。「6・15共同宣言」と「10・4首脳宣言」に戻ることです。
南と北は2つの宣言を通じ、南北問題の当事者が私たち民族であることを闡明し、朝鮮半島における緊張緩和と平和保障のための緊密な協力を約束しました。経済分野をはじめとする社会の各分野での協力事業を通じ、南北が共同繁栄の道を進むことを約束しました。
南と北が、相互尊重という土台の上に結んだこの合意の精神は、依然として有効です。そして切実です。南と北が共に平和な朝鮮半島を実現しようとした、その精神に戻らなくてはなりません。
私は、この場で明確に申し上げます。私たちは北朝鮮の崩壊を望んでおらず、いかなる形での吸収統一も推進しないでしょう。私たちは、人為的な統一を追求することもないでしょう。統一は、双方が共存共栄しながら、民族共同体を回復していくプロセスです。
統一は、平和が定着するなら、いつの日か南北間の合意により自然になされます。私と私たちの政府が実現しようとするのは、ただひたすらに平和です。
第二に、北朝鮮体制の安全を保障する朝鮮半島の非核化を追求します。
去る4月、「戦争危機説」が朝鮮半島と世界を席巻しました。朝鮮半島をめぐる軍事的緊張は、世界の火薬庫のようなものです。朝鮮半島の軍事的緊張を、早急に緩和しなければなりません。
南北間の壊れた信頼を、再び回復します。私たちはそのために、交流と対話を模索していきます。北朝鮮ももはや核の挑発を中断しなければなりません。偶発的な衝突を防止するための軍事管理システムの構築も必要です。
より根本的な解決策は、北朝鮮の核問題の根源的な解決です。北朝鮮の核問題は、過去よりもはるかに高度化され、難しくなりました。段階的かつ包括的なアプローチが必要です。
韓国政府は、国際社会と共に、北朝鮮の核の完全な廃棄と平和体制の構築、北朝鮮の安保・経済的危惧の解消、米朝関係および日朝関係の改善など、朝鮮半島と北東アジアの懸案を包括的に解決していきます。
しかし、手の平も合わせなければ鳴らないものです。北朝鮮が核の挑発を全面的に中断し、非核化のための両国間対話と多国間対話を始めない限り、不可能な話です。
第三に、恒久的な平和体制を構築していきます。
1953年以来、朝鮮半島は60年を超える停戦状態にあります。不安な停戦体制の下では、強固な平和を達成することができません。南北の貴重な合意が、政権が変わるたびにふらついたり、崩れたりしてもいけません。
平和を制度化する必要があります。国内的には南北合意の法制化を推進します。すべての南北合意は、政権が変わっても継承しなければならない朝鮮半島の基本資産であることを明確にします。
朝鮮半島に恒久的な平和構造を定着させるためには、終戦と共に、関係国が参加する朝鮮半島平和協定を締結する必要があります。北朝鮮核問題と平和体制への包括的アプローチにより、完全な非核化と共に平和協定の締結を推進していきます。
第四に、朝鮮半島に新たな経済地図を描きます。
南北が共に繁栄するための経済協力は、朝鮮半島に平和が定着する重要な礎です。
私は、「朝鮮半島新経済地図」構想を持っています。北朝鮮の核問題が進展し、適切な条件が造成されれば、朝鮮半島の経済地図を新たに描いていきます。軍事境界線によって断絶された南北を経済ベルトで新たに結び、南北が共に繁栄する経済共同体を実現していきます。
断絶していた南北の鉄道は再び繋がるでしょう。釜山と木浦から出発した列車が、平壌や北京、ロシアや欧州へと運行するでしょう。南・北・ロのガス管連結など、北東アジアにおける協力事業も推進されることになります。南と北は、大陸と海洋を結ぶ橋梁国として共同繁栄するでしょう。
南と北が、10・4首脳宣言を共に実践するだけです。その時世界は、平和の経済、共同繁栄の新しい経済モデルを見ることになるでしょう。
第五に、非政治的な交流協力事業は、政治・軍事的状況と分離し、一貫性を持って進めていきます。南北の交流協力事業は、朝鮮半島のすべての人々の痛みを癒し、和合を実現するプロセスであり、内側からの平和を作っていくことです。
南北には、分断と戦争で故郷を失い、別れた家族がいます。その痛みを、60年を超えて癒してあげられないことは、南北両政府にとって本当に恥ずかしいことです。
大韓民国政府に家族の再会を申請した離散家族のうち、現在生存している方は約6万人、平均年齢は81歳です。 北朝鮮も事情は同じでしょう。この方々が生きておられる間に、家族に会えるようしなければなりません。いかなる政治的考慮よりも優先しなければならない、喫緊の人道問題です。
分断で南北の住民が被害を受けているることも、南北が共に解決していかなければなりません。北朝鮮の河川が氾濫すると、韓国の住民が被害を受けます。感染症や山林の病虫害、山火事は、南北の境界を選びません。南北が共同対応するための協力を推進していきます。
民間レベルの交流は、当局間の交流に先立ち、南北の緊張緩和と同質性の回復に貢献してきました。民間交流の拡大は、行き詰まった南北関係を解きほぐしていくための大切な力です。さまざまな分野における民間交流を幅広くサポートします。地域間の交流も、積極的に支援します。
人間尊重という普遍的価値と国際規範は、朝鮮半島全域で具象化されなければなりません。北朝鮮の住民の劣悪な人権状況に対しては、国際社会と一緒に明確なアピールをしていきます。また、北朝鮮の住民に実際的に役立つ方向で人道的な協力を拡大していきます。
内外の貴賓の皆さん。
私と私たちの政府は、以上の政策方針を確実に堅持しながら、これを実践する準備ができています。南北が手を取り合い、朝鮮半島の平和への突破口を開いて行かなければなりません。
まずは、簡単なことから始めていくことを北朝鮮に提案します。
第一に、喫緊の人道問題から解決することです。
今年は「10・4首脳宣言」10周年です。同時に10月4日は、わが民族の大きな名節である秋夕(チュソク)でもあります。南と北は、10・4宣言により、離散家族と親戚の再会を拡大することに合意しました。民族的な意味を持つ2つの記念日が重なるこの日に離散家族の再会行事を開催するなら、南北が既存の合意を共に尊重し、履行していくための意義深い出発になるでしょう。
北朝鮮がもう一歩踏み出す用意があるなら、今回の離散家族再会に墓参りまで含めることを提案します。分断ドイツの離散家族は、文通と電話はもちろん、相互訪問や移住まで許容されていました。私たちもできない理由はありません。これ以上の離散家族が私たちの元を離れないうちに、彼らの涙を拭ってあげなければなりません。
万一北朝鮮が今すぐ準備するのが難しいなら、私たちの側だけでも北朝鮮にいる離散家族の故郷訪問やお墓参りを許容し、開放していきます。北朝鮮の呼応を願いつつ、離散家族再会を議論するための南北赤十字会談の開催を希望します。
第二に、平昌冬季オリンピックに北朝鮮が参加し、「平和オリンピック」にすることです。
2018年2月、朝鮮半島の軍事境界線から100kmの距離にある大韓民国の平昌(ピョンチャン)で冬季オリンピックが開催されます。2年後の2020年には夏季オリンピックが東京で、2022年には北京で冬季オリンピックが開催されます。韓国政府は、アジアに続くこの貴重な祭典を朝鮮半島の平和、北東アジアと世界の平和を築く契機にすることを、北朝鮮に提案します。
スポーツには心と心を繋ぐ力があります。南と北、そして世界の選手たちが汗を流して競争し、倒れた選手を起こして抱きしめたとき、世界はオリンピックを通じて平和を見ることになるでしょう。
世界の首脳が共に拍手を送りながら、朝鮮半島の平和の新たなスタートを共に開いていけるよう期待します。北朝鮮の平昌冬季オリンピック参加についてはIOCが協力を約束してくれているだけに、北朝鮮の積極的な呼応を期待します。
第三に、軍事境界線における敵対行為を相互に中止することです。
今この瞬間にも、朝鮮半島の軍事境界線では、銃声のない戦争が続いています。両軍による軍事的緊張の高まりは変わりなく続いています。これは、南北の武力衝突の危険性を高め、接境地域で暮らす双方の国民の安全を脅かしています。
今年7月27日は、休戦協定64周年になる日です。この日を期して南北が、軍事的緊張を高める軍事境界線での一切の敵対行為を中止するなら、南北間の緊張を緩和する意義深いきっかけとなるでしょう。
第四に、朝鮮半島の平和と南北協力に向けた南北間の接触と対話を再開することです。
朝鮮半島の緊張緩和は、最も差し迫った問題です。現在のように当局者間に何の接触もない状況は、非常に危険です。状況を管理するための接触を開始し、意味ある対話を進展させる必要があります。
さらには、適切な条件が備わって朝鮮半島の緊張と対立局面を転換させるきっかけになるのなら、私はいつでもどこでも、北朝鮮の金正恩委員長と会う用意があります。核問題と平和協定を含め、南北朝鮮のすべての関心事を対話のテーブルに乗せ、朝鮮半島の平和と南北協力のための議論をすることができます。
一度だけでは済まないでしょう。始めることが重要です。席から立ち上がらなければ歩み始めることはできません。北朝鮮の決断を期待します。
尊敬する内外貴賓の皆さん。
ドイツは韓国よりも先に冷戦を克服し、統一を成し遂げましたが、今は、地域主義とテロ、難民問題など、平和のための別の課題に直面しています。私は、ドイツが、ベルリンの民主主義と平和共存の精神をもって新たな課題を克服し、ドイツ社会とヨーロッパの統合を完成していくことを信じます。
大韓民国も、成熟した民主主義の力で平和な朝鮮半島を必ず実現していきます。ベルリンから始まった冷戦の解体をソウルと平壌で完成し、新しい平和のビジョンを北東アジアと世界に伝播するでしょう。
ドイツと韓国は、平和への前進を止めないでしょう。両国は常にお互いを支持し、応援し、連帯するでしょう。人類のより豊かな生活、世界のより良い未来に向かって勇敢に進んでいきましょう。
ありがとうございました。