2017年9月21日にニューヨーク国連本部で行われた第72会期国連総会における文在寅大統領の基調演説を全文和訳しました。
↓↓演説文の全訳はこちらです。
最初にこの場をお借りし、9月19日にメキシコで発生した地震の犠牲になった方々とそのご家族、そしてメキシコ国民と政府に対し、わが国国民と政府を代表して深い慰労の意を表します。
世界平和と安保に寄与してこられた全ての国連加盟国と国連職員の方々に尊敬と感謝の言葉を捧げます。
ミロスラヴ・ライチャーク(Miroslav Lajčák)第72会期国連総会議長のご就任をお祝いします。議長の優れた指導力で今回の国連総会がさらに意味ある成果を収めることを期待します。
アントニオ・グテーレス事務総長のご成功をお祈りします。大韓民国は「紛争の事前予防」と「平和の持続化」を追求する国連の目標を積極的に支持するとともに、総長の在任期間中に国連が、平和と人類共栄に寄与する強力な組織としてさらなる発展を遂げることを期待します。
議長、事務総長、そして各国代表者の皆さん。
私は今日この演説を準備しながら、国連の精神と私達の使命について考えました。
国連は人類の知性が作った最高の制度的発明品です。国連は「戦争の惨禍から次の世代を救うため」に誕生し、過去70年あまり、人類の前に提起されたチャレンジの数々に絶え間なく立ち向かってきました。国際社会における国連の役割と寄与はますます増大するでしょう。
超国境的な懸案が日増しに増加し、もはやいかなるイシューも一国や二国の力では解決できなくなった今日、私達は私達の前のあらゆる問題を解決するために、国連精神をさらに全面的に実現しなければなりません。
私はこのために、皆さん全てがユーラシア大陸が始まる東の果て・朝鮮半島と朝鮮半島の南側の国・大韓民国に注目してくださることを希望します。
私は、先の冬に起こった大韓民国のろうそく革命こそ、国連精神が輝かしく成就した歴史の現場であったと思います。ろうそく革命は、協力と連帯の力でチャレンジに立ち向かい、人類が願う未来に向かって進みました。
おそらくメディアを通して目撃したろうそく革命の風景を覚えている方もいらっしゃるでしょう。街をいっぱいに埋め尽くした数十万、数百万の火影、歌、踊り、絵が一つになった通りのあちこちで、それぞれが自由に発言し、平等に討論する人々、子供の手を引いて集会場に訪れる父母の明るい表情、集会が終わった街でゴミを片付ける若者から感じられる誇り、その全ての場面がまさに民主主義であり、また平和でした。
大韓民国のろうそく革命は、民主主義と憲法の回復を願う熱望が、市民の集団知性につながった広場でした。有力な大統領候補者であった私自身も、専ら市民の一人としてその広場に参加しました。大韓民国の国民は最も平和的で美しい方法で民主主義を成就しました。民主主義の実体である国民主権の力を証明し、暴力よりも平和の力が世界をより大きく変えられることを証明しました。
大韓民国の新政府はろうそく革命が作った政府です。民主的な選挙という意味を超え、国民の主人意識、参加と熱望が船出させた政府、という意味です。私は今、その政府を代表してこの場に立っています。
私は大韓民国の民主主義が、始まりは遅かったものの、世界の民主主義に新しい希望を示したという事実を非常にうれしく、誇らしく思います。今、大韓民国はその力で、国際社会が当面する懸案を解決するための先導的な役割を果たしていきたいと思います。
議長、事務総長、そして各国代表者の皆さん。
大韓民国と国連はいつも共に歩んできました。大韓民国は1948年の政府樹立から朝鮮戦争、戦後再建のプロセスに至るまで、国連から多くの支援を受けました。大韓民国は1991年になってようやく国連加盟国になりましたが、わずか半世紀の間にどの国よりも速く加盟国としての役割と責任を増大させてきました。
1993年からは平和維持活動(PKO)に継続的に参加し、今年は国連平和構築委員会(PBC)の議長国として、紛争の根本原因の解決に重点を置き、活動しています。
大韓民国は過去5年間に難民支援規模を15倍拡大し、昨年には国連難民機構(UNHCR)の「2000万ドル供与国クラブ」に合流しました。パリ協定の履行とエネルギー政策の転換を加速化しており、グローバルグリーン成長研究所(GGGI)とグリーン気候基金(GCF)を通し、開発途上国に対する気候変動対応支援の先頭に立ってもいます。また、わが国政府は女性内閣30%を達成することで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」における両性平等の実践を先導しています。
国連のあらゆる分野で、大韓民国は今後もますますその貢献度を高めていくでしょう。
特に私は、「人を根本に」という今回の国連総会のテーマが大韓民国新政府の国政哲学と一致することを大変意味深く思います。「人が先だ」は、何年にもわたり私の政治哲学を表現するスローガンでした。新政府のあらゆる政策の中心に「人」があります。
今、私達の政府は、成長を阻害し社会統合を害する経済不平等問題に真正面から立ち向かうために、経済パラダイムを果敢に転換しています。国民と家計所得の増加に中心をおく経済政策を打ち出し、雇用が主導する成長、全ての国民が公正な機会と成長の恩恵を享受できる経済を推進しています。私達の政府はこれを「人間中心の経済」と呼んでいます。
包容的成長のために私達が始めたこの大胆な努力は、国内だけに留まらないでしょう。大韓民国はこの新しいパラダイムに合わせ、開発途上国の持続可能な開発を支援するでしょう。
議長、事務総長、そして各国代表者の皆さん。
私は戦時中に避難地で生まれました。内戦でありながら国際戦争でもあったその戦争は、おびただしい人々の生を破壊しました。
300万を超える人々が命を失い、生き残った人々もまともな生を奪われました。私の父もその一人でした。暫しの間避難したとばかり考えていた父は、ついに故郷に帰れないまま世を去りました。私自身が、戦争が踏みにじった人権の被害者である離散家族です。
その戦争は、未だに完全に終わっていません。世界的な冷戦構造の産物だったその戦争は、冷戦が解体した後、休戦協定が締結されて64年が過ぎた今でも、不安定な休戦体制と北東アジアの最後の冷戦秩序として残っています。
北朝鮮の核とミサイル問題で北東アジアの緊張が高まれば高まるほど、戦争の記憶と傷は鮮明になり、平和を渇望する心臓が苦しく鼓動する場所、それが2017年9月、現在の朝鮮半島、大韓民国です。
戦争を経験した地球上唯一の分断国家の大統領である私にとって、平和は生の召命であり、かつ歴史的責務です。私はろうそく革命を通し戦争と葛藤が絶えない地球村に平和のメッセージを投げかけた、私達の国民を代表しています。また私にとっては、人類普遍の価値としてまともな日常が保証され、平和を享受すべき国民の権利を守る義務があります。
まさにこうした理由から、私は北朝鮮が自ら平和の道を選択することを願います。平和は自ら選択する時に完全で持続可能な平和となることを信ずるからです。
私は何よりも、私のこのような信念が国際社会とともにあることに感謝の意を表します。
北朝鮮は最近、国際社会の一致した要求と警告にもかかわらず、遂に6回目の核実験とミサイル挑発を敢行し、私達すべてに言うに言われない失望と怒りを抱かせました。北朝鮮の核実験の後、私達の政府は、北朝鮮に挑発を中断させ対話のテーブルに引き出すためには、より強力な制裁と圧迫が必要だという点を周辺国と国際社会に積極的に明示してきました。
私は国連安保理がたぐいなく迅速に、そして何よりも満場一致で、以前の決議より遥かに強力な内容で対北制裁を決議したことを高く評価します。北朝鮮の核と朝鮮半島問題に対し、国際社会が共に憤怒し、声を一つにして対応していることを明確に示しました。朝鮮半島問題の当事者として、私達の政府の立場に対する国際社会の共感と支持に重ねて感謝いたします。
私達の政府と国際社会は、北朝鮮が国連憲章の義務と約束に真っ向から違反しているにもかかわらず、北の核問題を平和的な方法で解決するために全力を尽くし、可能なあらゆる努力をしています。北の核問題の平和的、外交的、政治的な解決原則を直視した、国連安保理の大幅制裁決議もまた同様です。
私は世界平和と人類共栄のための実践を誓う国連総会の場で、もう一度、北朝鮮と国際社会に闡明します。私達は北朝鮮の崩壊を望みません。どのような形の吸収統一も人為的な統一も追求しないでしょう。北朝鮮が今からでも歴史の正しい側に立つ決断を下すなら、私達は国際社会とともに北朝鮮を助ける用意があります。
北朝鮮はこれらすべての動かせない事実を一日も早く認めなければなりません。自らを孤立と没落に導く無謀な選択を直ちに中断し、対話の場に出てこなければなりません。私は北朝鮮が他国に敵対する政策を捨て、核兵器を検証可能にし、そして不可逆的に放棄することを促します。
国際社会の努力もさらに強化しなければなりません。北朝鮮が自ら核を放棄する時まで、高い強度の断固たる対応をしなければなりません。全ての国が安保理決議を徹底して履行し、北朝鮮が追加挑発した場合にはそれ相応の新たな措置を模索しなければなりません。
安定的に状況を管理することも重要です。私達のあらゆる努力は戦争を防ぎ、平和を維持するためのものです。それだけに、まかり間違って度を越し、緊張を激化させたり、偶発的な軍事的衝突によって平和が破壊されることのないよう、北の核問題を取り巻く状況を安定的に管理していくべきでしょう。
「平和は紛争のない状態ではなく、紛争を平和的な方法で扱う能力を意味する」というレーガン前アメリカ大統領の言葉を私達全員がかみしめなければならないでしょう。特に私は、安保理理事国をはじめとする国連の指導者に期待し、要請します。北の核問題を根本的に解決するためには、国連憲章が語る安保共同体の基本精神が、朝鮮半島と北東アジアでも具現されなければなりません。北東アジア安保の基本軸と多者主義が賢明に結合しなければなりません。
多者主義の対話を通し世界平和を実現しようという国連精神が最も切実に求められる場所、それがまさに朝鮮半島です。平和の実現は国連の出発であり、過程であり、目標です。国連が朝鮮半島でより積極的に役割を果たす必要があります。挑発と制裁が強まり続ける悪循環を断ち切る根本的な方案を探すことこそ、今日国連に求められる最も重要な役割です。
私は幾度かにわたり「朝鮮半島新経済マップ」と「新北方経済ビジョン」を明らかにしてきました。一方の軸では北東アジア経済共同体の土台を固め、もう一方の軸では多者間安保協力を実現する時、北東アジアの真の平和と繁栄が始まることを信じます。
議長、事務総長、そして各国代表者の皆さん。
オリンピックは西暦394年を最後に1500年間も歴史から消え去りました。このオリンピックをもう一度復活させた力は、平和への渇望でした。近代オリンピックの歴史は、紛争のど真ん中、バルカン半島のアテネで開催された第1回オリンピックの感動とともに始まりました。
今から5ヶ月後、大韓民国の平昌(ピョンチャン)で冬季オリンピックが開催されます。2018年の平昌は2020年の東京、2022年の北京へと続く北東アジアリレーオリンピックの扉を開く場所です。私は冷戦と未来、対立と協力が共存する北東アジアで来年から開かれるこのリレーオリンピックが、北東アジアの平和と経済協力を増進する契機となることを熱望します。大韓民国はこのためになし得るあらゆる努力を尽くす準備ができています。
皆さん、一度想像してみてください。高々100km行けば朝鮮半島の分断と対決を象徴する休戦ラインと出会う都市・平昌に、平和とスポーツを愛する世界の人々が集まります。世界各国の首脳が友誼と和合の挨拶を交わすでしょう。
その中で開会式場に入場する北朝鮮の選手団、熱く歓迎する南北共同応援団、世界の人々の明るい顔々を想像すると、私は胸が熱くなります。決して不可能な想像ではありません。この想像を現実にするために、北朝鮮の平昌冬季オリンピック参加を積極的に歓迎し、IOCとともに最後まで努力するつもりです。
私は平昌がもう一つのろうそくになることを念願します。民主主義の危機の前に大韓民国の国民が掲げたろうそくのように、平和の危機の前で平昌が平和の光を灯すろうそくとなるだろうことを信じています。
私は皆さんと国連がろうそくとなってくれることを望みます。平和と同行するために心を一つにしてくれることを願います。今日、この切実な呼びかけを込め、世界各国の首脳を平昌にお招きします。皆さんの一歩が平和の一歩となるでしょう。
皆さん、来年平昌でお会いしましょう。ありがとうございました。
翻訳:K.S
【参考動画】
世界史に道が残る演説
「ろうそく革命、国連精神が輝やかしく成就した歴史の現場」