2018年4月27日夕方、南北首脳会談が開かれた板門店「平和の家」の3階で、文在寅大統領と金正恩北朝鮮国務委員長、金正淑夫人と李雪主夫人をはじめ、双方の招待客が歓迎の晩餐を共にしました。
文在寅大統領は冒頭、「南北が自由に行き来する日のために」と乾杯の音頭をとった後、歓迎の辞を述べました。
金正恩委員長は、文在寅大統領の歓迎の辞を聞きながら頻繁にうなずくなど、和気あいあいとした姿を見せました。
以下、文在寅大統領の「歓迎の辞」と、それに続く金正恩委員長の「答辞」の全文を日本語に訳してご紹介します。
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<南北首脳会談>文在寅大統領、晩餐会「歓迎の辞」全文
金正恩国務委員長と李雪主夫人、そして貴賓の皆様。
今日、全世界の関心が私たちに集まりました。歴史的な使命感で私たちの肩は重かったのですが、非常にやりがいのある一日でした。
北側のことわざに「同じ釜の飯を食べた者は同じ涙を流す」という言葉があります。私たちは訪ねてきたお客様を温かい食事でもてなさなければ気が済まない民族です。
今日、大切なお客様と心を開いて会話し、貴重な合意を果たし、美味しい夕食を共にすることとなり、嬉しいです。
金正恩委員長が特別に準備してくださった平壌冷麺、今日の夕食の意味をより大きくしてくれました。この一つの席に座るまで、われわれ同胞全てがよく耐え抜きました。
互いに拳を振り上げたときもありました。別れた家族に会えない悲しい歳月もありました。しかし今日、私たちは、全世界が見守る中で歴史的な出会いをもち、貴重な合意を果たしました。朝鮮半島と世界の平和のための新たな出発を迎えました。
今日の会談の成功のために全力を尽くしてくれた南北関係者の皆様、お疲れ様でした。
一つの春を待ち続けてくれた南北8000万の同胞の皆さん、ありがとうございます。
金正恩委員長が軍事境界線を越えて来るのを見て、私は11年前、盧武鉉大統領が軍事境界線を越えて行った姿を思い出しました。
そのとき私たちは、そうやって軍事境界線を越えて行き来しながら、南と北を遮る障壁がだんだん低くなり、かすかになって、私たちが再び一つになれると思っていました。
しかし、その後10年間、私たちはあまりにも恨めしい歳月を過ごしてきました。障壁はさらに高まり、鉄壁のようになりました。
金正恩委員長の勇断に敬意を表します。今日、分断の象徴である板門店は世界平和の揺籃となりました。金委員長と私は真心を込めて会話しました。心が通じ合いました。私たちは今日、朝鮮半島で戦争の暗雲を取り払い、平和と繁栄、共存への新しい道を開きました。
南と北が民族の運命を主導的に決定し、併せて国際社会の支持と協力も受けるべきだという認識を共にしました。また、新しい世界秩序を作る歴史的責務が私たちにあるという事実に共感しました。私たちが共にやり遂げることができるという自信を持つようにもなりました。
画像出典:news.naver.com
金正恩委員長と貴賓の皆様。
誰も行けなかった道を南と北は今日、大胆な想像力で歩き始めました。平昌で和解の握手を交わしてくれた北側選手団と応援団、平和を念願しながら熱く歓迎してくれた南側の国民も大きな力になりました。
北側の金永南常任委員長と金与正副部長、金英哲統一戦線部長は、特使として訪問し、対話の扉を開いてくれました。この場を借りて改めて感謝いたします。
今や困難な問題にぶつかれば、今日のように南北が膝を突き合わせ解決策を見つけていくでしょう。金正恩委員長と私は定期的な会談とホットラインで会話し、議論しながら、信頼関係を築いていきます。南と北の平和と繁栄への歩みが踵を返すことは二度とないでしょう。
北側の桂冠詩人であるオ・ヨンジェ氏は私たちに、
「もう会ったのだから別れないようにしましょう。二度と二度とこの受難の歴史、苦痛の歴史、血の涙の歴史を繰り返さないようにしましょう。 またしても繰り返されるなら、胸が張り裂けて血肉が死んでしまいます。民族が死んでしまいます。 半世紀の間にこびりついた心のわだかまりも、一瞬の出会いで全て解けるなら、それが血肉です。それが民族です」
と言いました。
私は今日、私たちの出会いで民族すべての心の中のしこりが解けることを切望します。同じ釜の飯を食べながら共に繁栄することを心から願います。
金正恩国務委員長と貴賓の皆様。
「道連れが良ければ長い道のりも近い」という北側のことわざがあります。金委員長と私は、今では世界にかけがえのない良い道連れとなりました。
今年の新年の辞から今日に至るまで、私たちは世界が驚くほどのスピードで昨日を昔にしました。 私たちが共に手を取り合って邁進すれば、平和の道も繁栄の道も統一の道も、つかつかと近づいてくるでしょう。
もうこの地に住む誰も、戦争による不幸を経験しないでしょう。寧辺のツツジは毎年春になると満開に咲き、南海の椿もなんの心配もなく咲き出すでしょう。
では、乾杯をいたしましょう。
私にはずっと前から果たせなかった夢があるのですが、それは白頭山と蓋馬高原をトラッキングすることです。
金委員長がその願いを必ず聞いてくれるだろうと信じます。(参加者の笑い)
私が退任したら、白頭山と蓋馬高原旅行券を一枚送ってくれるのではありませんか? しかし、私だけに与えられる特恵ではなく、われわれ民族の誰にもそのような日が来ることを祈ります。
北側では乾杯の音頭をどう取るのか分かりませんが、私は「ために」とさせていただきます。
「南と北が自由に行き来することのできるその日のために!!」
写真出典:news.naver.com
金正恩北朝鮮国務委員長の答辞(全文)
文在寅大統領と金正淑女史、そしてこの席を共にする南側の皆さん。
このように席を同じくすることに感慨を禁じえません。明らかに北と南で集まった席なのに、誰が北側の人なのか、誰が南側の人なのか、到底見わけがつかないこの感動的な姿こそ、本当に私たちは分かちえない一つだという事実を改めて再認識させられ、この瞬間の喜びに胸のワクワクが止まりません。本当に夢のようで、うれしいです。
この席に参加した皆さん、この場を見ておられる皆さん。
今日私は、文在寅大統領と歴史的な再会を、それも分断を象徴するここ板門店で行い、短い一日でしたが多くの会話を交わし、意味ある合意を成し遂げました。今日のこの貴重な結実は全ての同胞に大きな喜びと希望を抱かせ、朝鮮半島の平和を願う国際社会の支持と共感を呼び起こすだろうと思います。
文大統領の果敢な決断力と意志は、時代の歴史の中で大きな尊敬を受けるでしょう。文大統領に感謝の意を表します。この歴史的な再会との合意のために多くの努力を傾けてきた北と南のすべての方々にも心から感謝いたします。
画像提供:news.naver.com
今日私たちは、悪夢のようだった北南間の凍り付いた長くて長い冬に永遠の別れを告げ、暖かい春の始まりを全世界に知らせました。今日4月27日は、歴史の新たな出発点で止まっていたの時計の秒針が再び動き始めた、永遠に忘れられない瞬間として記憶に残るでしょう。
もちろん、今日の出会いと状況と成果は始まりに過ぎず、今後私たちがなすべきことに比べれば、氷山の一角に過ぎません。 私たちの前途は順調でないこともあるだろうし、私たちの前には絶えず新たな課題や障害が待ち受けているでしょう。しかし、私たちはささいな恐怖心を持ってはならず、目をそむけて回避する権利もありません。
私たちは、誰も代わることのできない歴史の主人公です。私たちができなければ、誰も代わってできないことを担っている私たちです。 この崇高な使命感を忘れず、共に取り合った手を固く握って着実に努力し、粘り強く歩いていけば、必ず良い案を作り出すことができるでしょう。 私は今日、このような真心をもう一度持つようになりました。
私は、今日合意したように、時と場所に縛られず、そして格式にとらわれることなくひんぱんに文大統領と会い、私たちが行く道を模索し、議論していきます。そして必要なときにはいつでも、私たち二人が電話で議論もしていきます。
平和で強大な国という終着駅に向かって力いっぱい駆け抜けなければなりません。この地の永遠の平和を守り、共同繁栄の新時代を築いていこうという私と文在寅大統領、そして私たち全員の意志にかかっています。
私たちは互いに心を合わせ、力を集めれば、どんな課題にも立ち向かい、勝つことができます。私はそれを必ずお見せしたいですし、また、お見せするつもりです。
全同胞の共通の念願と志向と意思を尊び、不信と対決の北南関係の歴史に終止符を打ち、共に手を取り合って民族の未来のために果敢に進まなければなりません。今日私が歩いて越えてきたここ板門店分離線エリアの狭い道を、全ての同胞が闊歩し、容易に行き来できる大通りにするために、さらに努力していかなければなりません。
新しい歴史を作るために多くの苦労の中で健闘されている文大統領、そして金正淑女史、南側の皆さん、そしてここに参加したすべての方々の健康のために乾杯することを提案します。ありがとうございました。