韓国の大統領として初めてロシア下院で演説する文在寅大統領
文在寅大統領は2018年6月21日(現地時間)、ロシア下院における演説で、未来成長エンジンの拡充と極東開発を通じた両国間の協力方案を明らかにしました。 以下、その演説文の全文を日本語に翻訳してご紹介します。
↓↓全文和訳はこちらです。
尊敬するロシア国民の皆さん、ヴャチェスラフ・ヴィクトロヴィチ・ヴォロージン下院議長と議員の皆さん。
モスクワに来る機内で私は、広大な大地が人間に与える畏敬の念について思いを馳せました。それゆえに自然と人間をより深く理解できるようになったロシアの心を思いました。ユーラシア大陸の大きさに匹敵するだけの長い息遣いでロシアは世界史に大きな痕跡を残しました。祖国戦争と大祖国戦争で世界史の流れを変え、人類の精神史と科学技術を同時に導いてきました。
ここ下院ドゥーマも、ロシア国民の力で誕生しました。今ではロシアの民意を代表し、ロシア国民の団結した力を見せてくれています。アジアの指導者の中で最初でありかつ韓国大統領として初めてドゥーマで演説する機会を設けてくださったヴォロージン議長とOlga EPIFANOVA副議長、レオニード・スルツキー外交委員長をはじめとする議員の皆様に深く感謝いたします。私にとって大きな名誉であり、両国の新たな発展を願うロシア政府と議会、国民の皆さんの期待を感じています。
ロシア国民の皆さん。
「ロシアが救われることがあるならユーラシア主義を介してのみ可能だ」とロシアの歴史地理学者であるレフ・グミリョフは言いました。ユーラシアの広大な大陸は、大小の文明が交流と相互作用を経ながら未来に進み、希望を育てる空間です。
ウラジミール・プーチン大統領の「新東方政策」は、平和と共同繁栄への夢を盛り込んだユーラシア時代の宣言です。西欧文明が成し遂げた利点と東洋文明が成し遂げた利点をユーラシアという巨大な溶鉱炉に入れ、人類に新たなビジョンを提示しようとする壮大な設計です。
韓国国民も、朝鮮半島の恒久的平和を超え、北東アジア全体の平和と共同繁栄を願っています。私が昨年、東方経済フォーラムで発表した「新北方政策」は、「新東方政策」に呼応する韓国国民の夢です。私は韓国とロシアの協力が朝鮮半島の平和と北東アジアの繁栄の礎であると考え、これまで本気になって取り組んできました。
大統領に当選した直後、プーチン大統領と通話したのに続き、韓国の大統領として初めて特使を派遣し、北朝鮮の核問題の平和的解決と極東開発のための協力方案を協議しました。また、ロシアの極東開発部に対応させ、ロシアとの経済協力を担当する「北方経済協力委員会」を大統領の直属機構として設置しました。
プーチン大統領は昨年9月、東方経済フォーラムに私を招待してくださり、私はその機会に「新北方政策」を発表し、韓ロ間の実質的な経済協力方案をプーチン大統領と協議しました。
今年1月、私の故郷・巨済島では、世界の人々の視線をユーラシアと北極に向けさせる意味深い出来事がありました。ロシアの北極探検家の名前をつけた砕氷LNG船「ウラジミール・ルザノフ」号が試験出港を行いました。私はその現場に直接参加し、ロシアと韓国が共に成し遂げた成果を世界に知らせ、祝いました。
私は今日、ロシアと共にあろうとする韓国国民の努力が、皆さんに真に伝わることを願っています。また、ユーラシアの持つ限りない可能性が、私たちの友情によって大きく開き得ることを信じています。
ロシア国民の皆さん。
韓国人の書斎には、ドストエフスキー、トルストイ、ツルゲーネフの小説とプーシキンの詩集が収められています。私も若い頃、見知らぬロシアの地名と登場人物を手探りしながら、人間と自然、歴史と暮らしの意味を自らに問い掛けたりしたものです。
20世紀の初めに韓国に紹介されたロシア近代文学は、韓国の現代文学の発展に大きな影響を与えました。韓国においてロシア文学はヒューマニズムの教科書でした。人間の尊厳と精神性に対する卓越した描写を通し、物質文明を生きる私たちに精神的価値の重要性を伝えてくれました。
地球外に出た人類初の宇宙飛行士であるユーリイ・ガガーリンも、科学技術を超える気付きを私たちに与えました。地球がいかに貴重で絶対的な存在であるかを教えてくれました。ロシアの底力は、人間に対する深い理解にあると思います。それが、いかなる課題と困難にも屈しないロシア国民の力となりました。
韓国人も伝統的に人間を尊重し、お互いの協力と信頼を価値あるものと考えてきました。その力で数々の外国の侵入を克服し、今日の堂々とした国に成長することができました。第二次大戦後に独立した国の中で唯一、大きな経済成長と民主主義の発展を共に成し遂げた国となりました。
ロシア国民と同様、韓国の国民は精神的にも非常に強靭です。私はこれが、私たちが同じようにトルストイを愛する理由だと思います。
ロシア国民の皆さん。
202年前、外交使節として北京を訪問した韓国人・趙寅永(チョ・インヨン)が、ロシア正教の伝道団長ビチュリンに会って友情を交わして以来、ロシアと韓国は友好と尊重の関係を続けてきました。1905年、韓国初の駐ロシア常駐公使である李範晋(イ・ボムジン)公使は、ロシアの地で亡国の知らせを聞きました。その時、温かい支援の手を差し伸べてくれたのがロシア政府でした。安重根(アン・ジュングン)、洪範図(ホン・ボムド)、崔在亨(チェ・ジェヒョン)、李相卨(イ・サンソル)先生といった多くの韓国の独立闘士がここロシアに亡命し、ロシア国民の助けを借りて力を育て、国権回復を図りました。
1980年代の末、韓国政府は、朝鮮半島における冷戦の壁を崩すために「北方政策」を推進しました。当時のソ連政府は、理念の壁を超え、1988年のソウルオリンピックに大規模な選手団を派遣しました。両国国民の間に友情と信頼が築かれ、ついに1990年、国交が正常化されました。
現在、韓国企業がロシアで生産した自動車や家電製品がロシア国民に人気です。ロシアは2013年、先進宇宙技術を韓国に伝授し、韓国はナロ号ロケットを成功裏に発射することができました。
先の5月、プーチン大統領は「2024ロシア連邦国家発展目標」を発表しました。国民が肌で感じられる変化と、国民一人一人が豊かに暮らせる経済を目指しています。私が進めている「人間中心の経済」の目標も同じです。経済成長の恩恵を国民に等しく還元するためのものです。
両国が極東地域で夢見る夢にも変わりがありません。ユーラシアの平和と繁栄を目指して努力することは、私たち皆が国民から与えられた使命です。
尊敬するロシア国民の皆さん、ヴォロージン議長と議員の皆さん。
2020年はロシアと韓国が新たに隣人になって30年を迎える年です。私たち両国は、この意味深い国交30周年に合わせ、ユーラシア発展のための協力をさらに強化し、貿易額300億ドル、人的交流100万人を達成しようという具体的な計画を立てました。私はこの席で、ロシアと韓国の協力拡大案についてお話ししたいと思います。
第一に、「未来成長エンジンの拡充」です。革新を通じて未来の成長に備えることは、両国国民に雇用を提供し、持続可能な成長の基盤を固めるという面で非常に重要です。韓国は国内に韓ロイノベーションセンターを設立し、モスクワにある韓ロ科学技術協力センターを拡大するでしょう。世界最高の源泉技術と基礎科学技術を持つロシアとIT技術に強みを持つ韓国が協力し、第4次産業革命の時代を共に先導することを願います。
第二に、極東開発への協力です。昨年の「東方経済フォーラム」で私は、「9つの橋戦略」を中心に両国の協力を提案しました。ガス、鉄道、電力、造船、雇用、農業、水産、港湾、北極航路の開拓という9つの重点分野で協力をさらに強化しなければなりません。民間の参加も拡大する必要があります。ロシアの極東地域と韓国の地方政府の間にも協力フォーラムが用意されています。
第三に、国民福祉の増進と交流基盤を強化することです。ロシアの「2024国家発展目標」における最優先課題の一つは、国民生活の質を高めるための国民保健の向上です。その課題に協力するために、韓国の医療技術がスコルコボと共に歩むことになるでしょう。ロシアと韓国企業の協力で設立された最先端の韓国型総合病院は、がん、腎臓、脳神経に特化した医療サービスを提供し、リハビリを助けることでしょう。
私は、両国の緊密な協力により、両国国民がより幸せになることを願います。両国関係の大切さを国民が日常の中で肌で感じてほしいと思います。
ロシア国民の皆さん。
明日は77年前にロシアの大祖国戦争が始まった日です。多くの英雄たちと無辜の死を遂げた犠牲者を称える「追悼と哀悼の日」です。ロシアだけでなく全ての人類にとって平和がいかに大切かを改めて深く心に刻みつける日となることを願います。
平和の大切さは、戦争の惨禍の中で平和を成し遂げるために献身した人々にとってより身に染みて感じられます。ロシアと同様、韓国も残酷な戦争を経験しました。私自身も避難民の息子として生まれ、戦争の痛みと平和の大切さを早くから痛感してきました。
今、朝鮮半島には歴史的な大転換が起きています。私は先の4月、北朝鮮の金正恩国務委員長に会いました。私たちは板門店宣言を通し、完全な非核化と共に、「もはや朝鮮半島に戦争はないこと」を世界の前に約束しました。続いて行われた米朝首脳会談でも、朝鮮半島の完全な非核化と米朝間における敵対関係の終息を宣言しました。北朝鮮は核実験場とミサイル実験場の廃棄など、完全な非核化のための実質的な措置を進めており、韓国と米国は大規模な米韓連合訓練の猶予など、北朝鮮に対する軍事的圧迫を解消する措置で呼応しています。今や南・北・米は戦争と敵対の暗い時間を後にし、平和と協力の時代へと進んでいます。
この驚くべき変化に、ロシア政府と国民の積極的な支持と協力が大きな力となりました。私は、朝鮮半島とユーラシアの恒久的な平和と共同繁栄を夢見てきました。この席にいる議員の皆さんもその道を共に歩んでくださると信じます。
朝鮮半島に平和体制が構築されれば、南北の経済協力が本格化されるでしょうし、ロシアとの三角協力へと拡大するでしょう。ロシアと南と北の三角経済協力は、鉄道とガス管、電力網の分野では既に共同研究などの基礎的な議論が進められています。3カ国間の鉄道、エネルギー、電力協力が実現すれば、北東アジア経済共同体の強固な土台となるでしょう。また、南北間の強固な平和体制は、北東アジアにおける多国間平和安全保障協力体制へと発展するでしょう。
尊敬するロシア国民の皆さん、議員の皆さん。
ここモスクワのヤロスラフスキー駅から沿海州の港湾都市・ウラジオストクまで走るシベリア横断鉄道は、単なる一つの鉄道ではありません。「ロシアの労働者たちの黄金の手によって建設された生命の道」であり、世界認識の地平を広げた文明の道であり、平和の道です。
この道は、単に商品と資源だけが行き来するのではなく、ユーラシアの真っただ中で東洋と西洋が出会う道です。それこそまさにユーラシア時代を開くゲートウェイです。いつの間にか100年を走り続けてきたシベリア横断鉄道は今、陸上交通の中心を超え、ユーラシア共同体建設の象徴であり、土台となっています。今、韓国は、朝鮮半島の恒久的平和を通じ、シベリア横断鉄道が私の育った朝鮮半島南端の釜山にまで繋がることを期待しています。韓国と北朝鮮がユーラシアの新しい可能性に共に賛同し、ユーラシアの共同繁栄を成し遂げるために手を取り合うことを願います。
「一人の知恵は良いが、二人の知恵はもっと良い」というロシアの諺が、今私たちにとって必要です。ロシアの知恵と韓国の知恵、ここに北朝鮮の知恵まで加わるなら、ユーラシア時代の夢は大陸の大きさと同じほどに大きく花開くでしょう。
最後に、世界の祭りであるワールドカップが成功裏に開かれていることを心からお祝いします。今年2月に平昌冬季オリンピックで素晴らしい試合を見せてくれたロシアの選手たちに私と私たちの国民は大きな拍手を送りました。ロシアワールドカップに参加した韓国選手団にも、ロシア国民の皆さんの温かい応援をお願いします。
ロシアと韓国の国民は、両国の新たな未来を確信しています。お互いに対する尊重と信頼をより深く築いていくなら、いかなる難関や課題をも共に乗り越えていけるでしょう。自然と人間が共存するユーラシアに人類の新しい希望があります。戦争の時代を超え、平和と繁栄の時代に向かってロシアと韓国は共に歩んでいくでしょう。
バリショーエ スパスィーバ! ありがとうございました。