尊敬する国民の皆さん。
国会議長と国会議員の皆さん。
私は今日、過去2年半にわたる財政運営の成果と2020年度予算案を国民と国会に説明し、ご協力をお願いしたいと思います。
過去2年半にわたり、政府は、私たちの経済と社会の秩序を「人」中心に変え、定着させるために努力してきました。
「豊かに暮らす時代」を超え「共に豊かに暮らす時代」に進むため、「革新的な包容国」の礎石を築きました。
今まで私たちの社会は、時代にダイナミックに対処し、発展してきました。
親の世代が成し遂げた経済的土台の上に、息子・娘の世代が民主主義の価値を確立しました。
私たちが責任ある中堅国、民主国として成長できたのは、すべての世代、すべての国民が流した汗の結晶です。
私たちの社会は今、個人の価値が高まり、人権の重要性が定着しつつあります。
すべての人の努力を保障する「公正な社会」を追求しています。
それだけ多様な声が出はじめており、”互いに対する理解”と”相違に対する寛容”と”多様性の中における協力”がこれまで以上に切実な時代になりました。
今は、私たちが進むべき目標に対しもう一度心を合わせるときです。
数十年間できなかったわが国の素材・部品・装備(装置と設備)産業の国産化と輸入の多角化から、わずか100日で、意味ある成果が現れています。
大企業が中小企業に先に手を差し伸べ、共に手を取り合い、国民の応援により、潜在していたわが国の科学技術が伸びはじめました。
新しい試みは不慣れで恐ろしくもありますが、私たちの意志が集まれば、どんなことでもやり遂げられることを私たちは確認しました。
今、私たち政府の残り2年半を準備すべき時点です。
革新的で、包容的で、公正で、平和的な経済によって「共に豊かに暮らす国」を作ることが、私たちが進むべき道だと信じます。
このような方向から設けた来年度予算案について、国会が共に知恵を集めてくださるようお願いします。
尊敬する国民の皆さん。
議員の皆さん。
財政の果敢な役割がこれまで以上に求められます。
低成長と二極化、雇用、少子高齢化など私たちの社会の構造的な問題解決に、財政が率先しなければなりません。
米中貿易紛争と保護貿易主義の拡散により世界経済が急速に悪化し、貿易依存度が高い韓国経済も厳しい状況を迎えています。
財政が積極的な役割を果たし、対外衝撃の高波を防ぐ「防波堤」の役割を果たさなければなりません。
さらには、私たちの経済活力を蘇らせる呼び水の役割を果たさなければなりません。
財政の健全性を懸念する方もいます。
私たちが関心を持ち続け、重要に考えるべき点です。
しかし、大韓民国の財政と経済力は、より多くの国民がより高い生活の質を享受するのに十分な程度まで成長しており、非常に健全です。
政府の予算案どおりにしても、来年度の国家債務比率はGDP比40%を超えません。
OECDの平均である110%に比べて比較にならないほど低レベルであり、財政健全性の面でトップレベルです。
最近IMFは、今年の世界経済成長率が2009年のグローバル金融危機以来最低を記録するだろうと予想しつつ、世界的な景気下落を克服するために財政支出を果敢に増やすよう、各国に勧告しました。
特にドイツとオランダと韓国を、財政余力が十分なため、財政拡大によって景気に対応できる国に挙げました。
世界経済フォーラム(WEF)の国家競争力評価でも、韓国は141カ国のうち13位を記録しました。
2016年の26位から大きく上がり、わが政府発足後、2017年から今年まで3年連続で17位、15位、13位に上昇しています。
特に私たちは、マクロ経済の安定性と情報通信の分野で、2年連続1位を占めました。
また、3大国際格付機関がすべて、韓国の国家信用格付を日本、中国よりも高く維持しています。
わが国経済の堅実性は、私たち自身よりもむしろ世界で高く評価されているのです。
韓国政府は、最近2年間の税収好調により、国債発行規模を当初の計画より28兆ウォン縮小し、財政余力を備蓄しました。
来年に赤字国債の発行限度を26兆ウォン増やすことも、既に備蓄した財政余力の範囲内だと申し上げます。
過去2年半の間、財政が多くの役割を果たし、「革新的な包容国」の礎石を築きました。
財政が呼び水となり、民間が拡散させました。
しかし、今やっと政策の成果が現れ始めたばかりです。
わが国の経済が対外的な高波を超えて活力を取り戻し、国民も暮らしが良くなったと体感できるまで、財政の役割は継続されなければなりません。
私たちが今きちんと対応しなければ、近い将来、より大きな代価を払うことになるでしょう。
来年度の拡張予算が、選択ではなく必須である理由です。
尊敬する国民の皆さん。
議員の皆さん。
財政は、国家政策を実現するための手段です。
特に、予算と税法改正案には、私たちの社会が進むべき方向と目標が盛り込まれています。
来年度予算案と税法改正案には、より活力ある経済のための「革新」、より温かい社会のための「包容」、より正義が叶う国のための「公正」、より明るい未来のための「平和」、四つの目標が盛り込まれています。
このため政府は、総支出を今年より9.3%増やした513兆5000億ウォン規模に、総収入は1.2%増やした482兆ウォンに編成しました。
第一に、わが国経済の「革新の力」を育てる財政です。
第4次産業革命時代、「革新の力」は、地下に埋蔵された「油田」よりも大きな価値をもちます。
革新力がそのまま、国家競争力の核心です。
創造を鼓舞し、チャレンジを応援し、失敗を恐れない情熱により、未来の成長エンジンが作られます。
全世界が「革新の力」を育てるために銃声のない戦争をしているのも、このためです。
過去2年半にわたり政府は「革新を応援する創業国」を国政課題とし、新成長産業戦略、第2ベンチャーブーム拡散戦略、水素経済ロードマップ、革新金融ビジョンなどを推進しつつ、革新力を育てるために投資してきました。
その結果、「革新の力」が蘇っています。
昨年の新規ベンチャー投資が過去最高の3兆4000億ウォンに達し、今年も4兆ウォンに達すると予想されます。
新設法人の数も、昨年10万件を突破し、今年はさらに増えています。
ユニコーン企業の数も、2016年の2社から今年は9社に増え、世界6位を記録しました。
新しいチャレンジへと向かう革新の雰囲気が広がっています。
しかしまだ、第2ベンチャーブームが成功したと言うには早すぎます。
来年には、私たちの経済、「革新の力」をさらに育てるでしょう。
第4次産業革命の核心である「データ」「ネットワーク」「人工知能」分野に1兆7000億ウォン、「システム半導体」「バイオヘルス」「未来車」などの新成長産業に3兆ウォンを投資し、コア素材・部品・装備(装置と設備)産業の自立化にも2兆1000億ウォンを割り当てて、今年より大きく増やしました。
世界経済の鈍化に伴う輸出・投資の不振を打開するため、貿易金融を4兆ウォン以上拡大し、企業投資にさらに多くの税制インセンティブを付与します。
地域から革新と経済活力が蘇るよう、生活SOC、国家均衡発展プロジェクト、規制自由特区など「地域経済活力3大プロジェクト」も本格的に推進していきます。
第二に、私たちの社会の「包容の力」と「公正の力」を育てる財政です。
私たちの社会の日の当たらない場所をかき抱き、葛藤を減らし、革新の成果を誰もが共に享受するとき、国家社会の力量も共に高まります。
それが包容です。
公正は、革新と包容を可能にする基盤です。
政府は、脆弱階層に対する社会的なセーフティネットを強化し、青年・女性・新中年(自分自身を育て、人生を幸せに生きるために努力し、若々しく生きる中年を指す言葉)に合わせた雇用を拡大するなど、包容国の基盤を整備するために惜しみなく投資してきました。
その結果、「包容の力」があちこちに届いています。
まず、所得環境が改善されています。
今年第2四半期の家計所得と勤労所得のどちらも、最近5年間で最も高い増加率を示しました。
特に、高齢化の影響でずっと落ち続けていて心配だった1分位(所得下位20%)階層の所得が増加に転じました。
勤労奨励金拡大などの政策効果により、1分位と2分位(所得下位20~40%)階層の所得がさらに改善することを期待します。
雇用も、回復傾向を維持しています。
今年9月までの平均雇用率は66.7%と歴代最高レベルであり、青年雇用率も12年ぶりに最高値を示しました。
8月と9月の就業者数が45万人と34万人を超えて増加し、年間の就業者数は目標値である15万人を大きく上回る20万人台半ばになると予想されます。
正規社員の割合も今年平均で69.5%と最高値を記録し、雇用保険の加入者も50万人以上増え、雇用の質も改善されています。
しかし、まだ多くの努力が必要です。
雇用の質がさらに高まる必要があり、製造業と40代の雇用減少を防がなければなりません。
私たちの社会の「包容の力」と「公正の力」をさらに育てなければなりません。
まず、社会的なセーフティネットをさらに緻密に補強していきます。
基礎生活保障制度の死角を減らし7万9千世帯が追加で基礎生活保障の恩恵を受け、雇用保険を受けられない求職者20万人に韓国型失業扶助として求職促進手当と就業支援サービスを支援する「国民就職支援制度」を本格的に施行します。
教育の公平性と包容性を高めるため、今年は高3から始めた高校無償教育を来年には高2まで拡大し、再来年には全学年に適用して高校無償教育を完成します。
青年は、私たちの社会の未来です。
青年賃貸住宅2万9千戸を供給し、青年層に対する追加雇用奨励金と青年ネイルチェウム共済をさらに拡大していきます。
女性の社会参加が高まるほど、社会はさらに成熟し、発展します。
高齢化の対案でもあります。
経歴断絶女性の再就職に対し、所得税の減免支援をさらに広げていきます。
高齢化時代の高齢者は、より長く社会発展の動力となり、働く福祉を享受できなければなりません。
高齢者の良質な雇用のため、より多くの財政を投入していきます。
公益型など高齢者の雇用も13万件プラスした74万件に増やし、期間も延長します。
財政によって短時間雇用を作るという批判がありますが、働く福祉がより良いことには疑問の余地がないでしょう。
それとともに来年から、低所得層高齢者157万人に対し、追加で基礎年金を30万ウォンに引き上げます。
自営業と小商工人は、わが国経済の堂々とした主体です。
緊急経営安定資金の融資と特例信用保証を大幅に増やす一方、オンヌリ商品券や地域サラン商品券も大きく増やし、合計5兆5千億ウォンを発行していきます。
第三に、私たちの未来、「平和の力」を育てる財政です。
朝鮮半島は今、恒久的な平和に進むための最後の峠を迎えています。
私たちが共に越えなければならない非核化の壁です。
対話だけがその壁を崩すことができます。
相手があることであり、国際社会とともに進む必要があるため、私たちの思いどおりに速度を上げることはできませんが、核とミサイルの脅威が戦争への不安に増幅されていたわずか2年前に比べれば、私たちが行くべき道は明白です。
私たちは、歴史の発展を信じつつ、平和のためになし得る、対話の努力を尽くさなければなりません。
私たちの運命を他人に任せず、私たち自身で決定するために必ず必要なのが、強い安保です。
今、私たちの安保の重点は北朝鮮に対する抑止力ですが、いつか統一されるにしても、列強の中で堂々とした主権国家になるためには、強い安保力を備えなければなりません。
来年度予算では国防費を50兆ウォン以上に策定しました。
次世代国産潜水艦、偵察衛星などの核心防御を補強する一方、兵士の給料を兵長基準で41万ウォンから54万ウォンに33%引き上げ、国防義務を補償していきます。
国際社会で責任ある役割を果たし、支持と協力を広げていくために最善を尽くします。
広報外交とODA予算を大幅に増やし、平和と開発の好循環、持続可能な成長を支援します。
特に4大強国と新南方、新北方などの戦略地域を中心に、集中増額していきます。
朝鮮半島に平和が定着すれば、私たちの経済は新たな機会を迎えることになります。
南北の鉄道と道路を連結し、経済・文化・人的交流をさらに拡大するなど、朝鮮半島の平和と経済協力が好循環する「平和経済」基盤の構築にも努めていきます。
北朝鮮の明るい未来も、その土台の上でのみ可能となるでしょう。
北朝鮮の呼応を促します。
尊敬する国民の皆さん。
国民の多様な声を重々しい気持ちで聞きました。
「公正」と「改革」に対する国民の熱望を、改めて痛感しました。
政府はこれまで、私たちの社会に蔓延する特権と反則、不公正をなくすために努力してきましたが、国民の要求はそれよりはるかに高いものでした。
国民の要求は、制度に内在している合法的な不公平と特権までも根本的に変えようということでした。
社会の指導層であるほど、より高い公平性を発揮せよということでした。
大統領として重い責任を担っていきます。
「公正」が土台になってこそ「革新」もあり、「包容」もあり、「平和」もあります。
経済のみならず社会・教育・文化の全般で、「公正」が新たに構築されなければなりません。
国民の要求を厚く尊び、「公正」のための「改革」をより一層強力に推進していきます。
「公正社会に向けた反腐敗政策協議会」を中心に、公正が私たちの社会に根を下ろすよう、新たな覚悟で臨みます。
公正経済は「革新的な包容国」の中核基盤です。
これまで、甲乙問題(パワハラ)の解消により取引慣行が改善され、企業の支配構造改善と路地商圏保護などの共生協力を成し遂げましたが、依然として不十分です。
商法と公正取引法、下請取引公正化法、金融消費者保護法など公正経済関連法案の通過に力を注ぎ、現場で公正経済の成果が体感できるよう、さらなる努力を重ねます。
国民が最も胸を痛めているのは、教育における不公平です。
最近はじまった学生簿総合選好の全面的な実態調査を厳正に推進し、高校序列化の解消に向けた方策も講じています。
定時比率のアップを含む「入試制度改編案」も整備していきます。
採用については、公的機関における採用実態調査と監査院監査を進めており、公共機関のブラインド採用と正規職転換などにより、公正採用と不正採用根絶を推進しています。
今後、不正採用が完全に消えるまで、強力な調査とともに厳正な措置を講じ、被害者を救済しつつ、継続して制度の改善を推進していきます。
脱税、兵役、職場内差別など、国民の暮らしの中に存在するすべての不公正を果敢に改善し、国民の期待に応えます。
尊敬する国民の皆さん。
議員の皆さん。
最近、様々な意見の中でも国民の意志が一つに収束しているのは、検察改革が急務であるという点です。
どんな権力機関も「国民」の上に存在することはできません。
厳正でありながらも国民の人権を尊重する、節制された検察権行使のためには、誤った慣行を正さなければなりません。
先週、政府は、法改正なしに政府ができる検察改革案を国民に既に報告しました。
深夜調査や不当な別件捜査の禁止などを含む「人権保護捜査規則」と捜査過程における人権侵害を防止するための「刑事事件公開禁止に関する規定」も10月中に制定します。
検察に対する実効性ある監察と公平な人事など、検察がもはや全能の権力ではなく、国民のための機関という評価が得られるまで、留まることなく改革を推し進めます。
国民のみならず大多数の検事も願ってやまない検察の姿だと信じます。
国会も、検察改革のため、最も重要な役割を担ってくれるよう望みます。
「公捜処法」と「捜査権調整法案」など検察改革に関する法案を、早急に処理してくれるようお願いします。
公捜処(高位公職者犯罪捜査処)の必要性について意見もありますが、検察内部の不正に対し過去のように検察が自ら厳正に問責しない場合、私たちにどんな代案があるのか問いたいと思います。
公捜処は、大統領の親戚や特殊関係者をはじめとする、権力型不正に対する特別査定機構としても大きな意味を持ちます。
権力型不正に対する厳正な査定機能があったなら、国政壟(ろう)断事件は起きなかったでしょう。
「公捜処法」は、私たち政府からはじめ、高位公職者をより緊張させ、より清廉で健全にする役割を果たすでしょう。
「民生」と「安全」に対する国民の要求も先送りできません。
来年に労働時間の短縮が拡大施行されるに伴い、「弾力的勤労制など補完立法」が急がれます。
それでこそ企業が予測可能性を持てるようになります。
第4次産業革命に対応するための「データ3法」と技術自立化のための「素材・部品・装備特別法」も早急に処理しなければなりません。
「ベンチャー投資促進法」「農業所得保全法」「小商工人基本法」「幼稚園3法」など多くの民生法案も国会に係留中です。
国民の安全と災害対応を強化するための「消防公務員国家職転換法」と青年や女性のための「青年基本法」「家庭内暴力処罰法」などの安全関連法案、国会を先進化するための「国会法」も係留中です。
「民生」と「安全」という国民の要求に、国会がより大きな関心を注いでくれるようお願いします。
最近、野党から、入試制度、公共機関の採用・昇進、天下り人事、労組の雇用世襲、兵役・納税制度の改革、大・中小企業の公正取引、非正規職の正規職転換、不動産問題の解決など、公正に関する様々な議題が提示されました。
与野政が向かい合い、共に議論すれば、十分に成果を出せる部分が多くあります。
国会の立法なしには、民生政策が国民の暮らしに浸透することができません。
特に、国民統合のためにも、もつれた国政のかせ糸を解くために「与野政国政常設協議体」を約束どおり稼動し、「与野党代表との会談」も活性化し、協治(協調型政治)を復元し、20代国会の有終の美を飾れるよう望みます。
尊敬する国民の皆さん。
国会議長と国会議員の皆さん。
私は「共に豊かに暮らす大韓民国」を考えます。
私たちすべてが共に努力して成し遂げた成果を、より一層発展させていかなければなりません。
保守的な考えと進歩的な考えが実用的に調和してこそ、新しい時代に進むことができるでしょう。
政治は常に、国民を恐れなければならないと信じます。
私自身から、他の考え方を持つ人々の意見を傾聴し、同じ考えを持つ人々とともに自分自身を省察します。
過去の価値や理念がもはや通用しない時代になりました。
あることは果敢に推し進めなければならず、残念でも次に持ち越したり速度を調節すべきこともあります。
適時に正しく判断するために、共に議論し協力しなければなりません。
もっと多くもっと頻繁に国民の声を聞き、国会と共に歩みたいと思います。
最後の定時国会を迎えただけに、山積した民生法案を早急に片付け、来年度予算案と税法改正案も法定期限内に処理し、20代国会が「民生国会」と評価されることを期待します。
「革新の力」「包容の力」「公正の力」「平和の力」を育て、「共に豊かに暮らす国」「誰も揺るがせない強い経済」が、民意の殿堂である国会から実現することを希望します。
ありがとうございました。
2019年10月22日
大韓民国大統領 文在寅
【参考動画】