文在寅大統領は、2019年6月14日午前、ストックホルム市内にある国会第2議事堂で演説を行いました。以下にその内容を全文和訳してご紹介します。
全文和訳はこちらです↓↓
スウェーデン国会演説「朝鮮半島の非核化と平和のための信頼」
2019-06-14
尊敬する国王陛下、
アンドレアス・ノレーン議長、
首相と議員の皆さん、
内外貴賓の皆さん。
グモロン!(こんにちは)
ノーベル平和賞受賞者のアルバ・ミュルダ-ル女史は、まさにこの場所で、世界の軍縮のために努力すると初めて宣言しました。
韓国の金大中大統領もノーベル平和賞受賞の直後、まさにこの場所で、朝鮮半島の平和ビジョンを改めて闡明しました。
それから19年が流れましたが、朝鮮半島の平和にどれほどの進展があったのかと振り返らされます。
由緒あるスウェーデンの議事堂で演説することになり、光栄に思います。
温かく迎えていただき、演説の機会を与えてくださったスウェーデンの国民と国王陛下ご夫妻、議員の皆さんに心から感謝いたします。
スウェーデンは大韓民国の古くからの友人です。
朝鮮戦争の際には、野戦病院団を派遣して2万5千人のUN軍と捕虜を治療し、韓国の国立中央医療院の設立を助けました。
民間の医療陣は戦後も釜山に残り、国交も結んでいない国の国民を治療し、慰労してくれました。
スウェーデンは、韓国人にとって長い間、理想的な国でした。
1968年、韓国が戦争の傷の中で民主主義を夢見ていた時期、韓国の詩人シン・ドンヨプはスウェーデンを描いた詩を書きました。
その詩の一部を読んでみましょう。
「スカンジナビアとかいう地方では、炭鉱から帰宅する鉱夫たちの作業服の後ろポケットに油じみた本、ハイデガー、ラッセル、ヘミングウェイ、荘子。
休暇の旅に出発する総理大臣が駅の待合室の切符売り場で熱い日差しを浴びて並んでいるとき、それを見た駅長は、楽しそうだという挨拶を一言交わすだけで、何事もないように事務室のドアを開け、入って行ったという。
その中立国では、大統領の名前は知らなくても、鳥の名前、花の名前、指揮者の名前、劇作家の名前はよく知っているという。
自分の家のブドウ畑には人を傷つけるミサイル基地もタンク基地も入れない国。
黄土色に染まった夕焼け、大統領という肩書きを持つ紳士が、自転車の尻にマッコリの瓶を載せ、三里の田舎道を詩人の家に遊びに行くという。」
韓国人たちは、この時を読みながら、レベルの高い民主主義と平和、福祉を想像しました。
今もスウェーデンは、韓国人が非常に愛する国です。
韓国人は、朝鮮半島の平和を助けるスウェーデンの役割をとても有難く思い、信頼しています。
スウェーデンは、ソウルと平壌、板門店に計3つの公式代表部を置く、世界で唯一の国です。
北朝鮮もまた、スウェーデンの中立性と公正さに信頼を示しています。
この場を借り、過去70年間、朝鮮半島の平和のために変わらない誠意を送ってくれたスウェーデンの国民と指導者に敬意を表し、韓国国民の熱い友情を伝えます。
議員の皆さん、
内外の貴賓の皆さん。
スウェーデンと大韓民国はユーラシア大陸の反対側に位置し、地理的に非常に遠い国ですが、互いに似ている点が多くあります。
大陸と海洋が出会う半島に位置し、歴史的に多くの戦争が起き、主権を守るために絶えず努力しなければなりませんでした。
スウェーデンは、18世紀から続いた100年間の大飢饉により、また韓国は20世紀に植民地と戦争を経て、貧困を克服するのに孤軍奮闘した時期もありました。
しかし、偉大な国民の力で困難を乗り越えたという点が特に似ています。
勤勉と不屈の意志を持つ両国国民は、製造業を中心に貧しい国を豊かな国へと立ち上がらせました。
十分な教育を受けた青年たちは、革新とチャレンジを恐れず、両国政府は彼らが存分にチャレンジできるよう、創業とスタートアップを積極的に支援しています。
文化を愛する両国国民が成し遂げた芸術的な成果もまた、目覚ましいものがあります。
両国の文化芸術は、世界の人々から愛されています。
世界の人々はアバ(ABBA)と防弾少年団(BTS)の音楽を愛し、スウェーデンの作家・リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』とスティーグ・ラーソンの『ミレニアム』、韓国の作家・漢江(ハンガン)の『菜食主義者』を読んでいます。
何よりも、両国の最大の共通点は、平和への強い意志です。
スウェーデン国民の素晴らしさは、単に自国の平和を守るに留まらず、他国の平和にも関心を持ったという点です。 スウェーデンは、戦争の脅威から人類社会を守る、国際社会の平和守護者となりました。
苦痛を受ける人類に喜んで手を差し伸べてきたスウェーデンの歴史は、朝鮮半島の完全な平和を夢見る大韓民国の国民に多くの感化を与えています。
昨年4月、スウェーデンの夏のように美しく晴れ上がった、春の日の板門店を世界の人々が注視しました。
北朝鮮の金正恩委員長が史上初めて軍事境界線を越え、南北首脳は10年ぶりに再び顔を合わせました。
「二度と戦争による不幸を経験しない」という国民の切実な熱望が、分断の象徴・板門店を一瞬にして平和の揺籃に戻しました。
苦労の末に出会った南と北は、真心を込めて対話し、平和と繁栄、共存の新たな道を開くことを約束しました。
南北軍事合意書を締結し、敵対行為の中止、飛行禁止区域の設定、DMZ内の監視哨所撤収と共同遺骨発掘などに合意しました。
その日の出会いにより、遂に南北間に小さな道が開かれました。
停戦協定後65年間、人が足を踏み入れなかった非武装地帯の森に11本の小さな道ができました。
もうすぐ、南北の国民が行き来する多くの道ができるでしょう。
今年はDMZの「平和の道」が開かれ、兵士でなければ行けなかった非武装地帯を一般の人々も歩けるようになりました。
韓国の国民は、このような変化が平和を願う世界の人々の支持と声援、国際的な連帯のおかげだったことをよく知っています。
特に、朝鮮半島の平和を作る当事国が出会い、対話する機会を設けてくれたスウェーデンの役割に感謝いたします。
私たちは、スウェーデン国民の応援により、朝鮮半島の平和への希望を一層大きく育てることができました。
2000年の南北首脳会談から歴史的な第1、2回米朝首脳会談まで、スウェーデンが果たしてきた大きな役割を決して忘れないでしょう。
議員の皆さん、
内外貴賓の皆さん。
スウェーデンの今日を作った力は「信頼」だと思います。
スウェーデンの国民は互いを信頼し、政府と企業を信頼しています。
1938年の歴史的なサルトシェーバーデン協約のように、労使が合意を経て決定を導出し、決定が下されれば、誰もが受け入れ、実行する知恵が定着しています。
スウェーデンのシンドラーと呼ばれるラウル・ワレンバーグと「白いバス」で第二次世界大戦の捕虜を救出したフォルケ・ベナドッテの活躍は、個人が困難に陥ったときに誰かが動いて助けてくれるという信頼をもたらしました。
スウェーデンの国民は、「良い社会になるには、構成員すべてが貢献しなければならない」ということに同意し、実践しています。
地球の平和も同じだと思います。
地球の平和のためにも、すべての国の貢献が必要です。
スウェーデンは、開発技術を持っていましたが、核兵器の保有を放棄しました。
新たな戦争の脅威への対処策として、核で武装するよりも、平和的な軍縮を提示し実践したのは、スウェーデンらしい選択でした。
スウェーデンがどの国よりも先に核を放棄できたのは、人類が新たな未来を作れるという信頼を持ったからです。
世界が究極的には「平和を通じた繁栄」を選ぶだろうという信頼でした。
核拡散防止活動、最高レベルの政府開発援助(ODA)などを通じ、スウェーデンは自らの信頼を実践しています。
今、世界は、スウェーデンに従い互いへの信頼を育んでいます。
人類愛と平和の先頭に立っているスウェーデン国民に敬意を表します。
議員の皆さん、
内外貴賓の皆さん。
私は、スウェーデンの道を信じています。
朝鮮半島もまた、信頼を通じて平和を作り、平和を通じて信頼をさらに堅固にするべきです。
私は今日、この場で、南と北の間に3つの信頼を提案します。
第一に、南と北の国民間の信頼です。
平和的に豊かに生きようとするのは、南も北も同じです。
別れて対立していた70年の歳月を一朝一夕に修復できないことも事実です。
違いが大きく感じられる時もあり、もどかしい時もあるでしょう。
しかし南北は、単一民族国家として、5000年に及ぶ共通の歴史があります。
対話のドアを常に開いておき、コミュニケーションを放棄しなければ、誤解を減らし、理解を広げることができます。
3回の南北首脳会談を通じた対話は、すでに色々な変化を作り出しています。
軍事境界線での敵対行為が中断されました。
南北の道路と鉄道が連結されています。
国境地帯の灯台に再び光が灯り、漁民が安全に漁に出られるようになりました。
小さいながらも具体的な平和、平凡な平和が実現しています。
こうした平凡な平和が継続的に蓄積すれば、敵対は消え、南と北の国民すべてが平和を支持するようになるでしょう。
それが恒久的で完全な平和の始まりになるでしょう。
第二に、対話に対する信頼です。
世界は、南と北が平和的に共存することを望んでいます。
どんな国も南北間の戦争を望んではいません。
朝鮮半島の平和が崩れれば、北東アジア全体の平和と安定が崩れ、世界中に膨大な災害をもたらすでしょう。
どんな戦争も、平和より高い代価を払うことになるというのは、歴史を通じて人類が会得した知恵です。
朝鮮半島の平和を支持することは、南北はもちろん、世界全体の利益になる道です。
平和は、平和な方法でのみ実現されます。
それが対話です。
北朝鮮の平和を守ってくれるのも、核兵器ではなく対話です。
これは、韓国も同じです。
南北間の平和を究極的に守ってくれるのは、軍事力ではなく対話です。
互いの体制は尊重されるべきであり、保証されなければなりません。
それが平和のための第一番目であり、変えることのできない前提です。
北朝鮮が対話の道を歩むなら、世界の誰も北朝鮮の体制と安全を脅かさないでしょう。
北朝鮮は、対話を通じた問題解決を信頼し、対話相手を信頼しなければなりません。
信頼は、相互的である必要があります。
それが対話の前提です。
韓国国民も、北朝鮮との対話を信頼しなければなりません。
対話を信じない人々が平和を遅れさせます。
対話だけが平和に至る道であることを、南北のすべてが信頼しなければなりません。
第三に、国際社会の信頼です。
5000年の歴史において南北は、どんな国も侵略したことがありません。
互いに向かって銃口を向けた、悲しい歴史を持つだけです。
しかし、偶発的な衝突と核武装に対する世界の懸念は続いています。
国際社会の制裁を解くためには、この懸念を払拭させる必要があります。
北朝鮮は、完全な核廃棄と平和体制構築の意志を国際社会に実質的に示す必要があります。
国際社会の信頼を得るまで、二国間対話と多国間対話を問わず、国際社会との対話を継続しなければなりません。
一方では、南北が合意した交流協力事業の履行を通じ、内側からの平和を作り、証明する必要があります。
国際社会は、北朝鮮が真に努力すれば、これに即座に応えるでしょう。
制裁解除はもちろん、北朝鮮の安全も国際的に保証するでしょう。
韓国は、国際社会の信頼回復のため、北朝鮮と共に変わることなく努力するでしょう。
また、南北間の合意により韓国がした約束を徹底的に履行することで、朝鮮半島の平和に対する国際社会の信頼をより一層強固にするでしょう。
南北が共に国際社会の信頼を回復すれば、より多くの可能性が目の前の現実になるでしょう。
国際社会の制裁から脱し、南北が経済共同体として生まれ変われば、朝鮮半島は、北東アジアの平和を促進し、アジアが持つ可能性を実現する空間となるでしょう。
南北は、共同で繁栄できます。
朝鮮半島の完全な非核化と平和は、世界の核拡散防止と軍縮の堅固な土台となり、国際的・軍事的紛争を解決するモデルケースとなるでしょう。
南と北は、朝鮮半島の平和を超え、世界の平和に貢献することになるでしょう。
尊敬する国王陛下、
アンドレアス・ノレーン議長、
首相と議員の皆さん、
内外貴賓の皆さん。
「冷戦時代の最初の熱戦」だった朝鮮戦争で、南北のみならず参戦国の将兵まで数多くの命が失われました。
戦争開始から3年で停戦が成立しましたが、悲劇の戦争は終わっていません。
終戦ではなく停戦が、現在まで続いています。
休戦ラインを挟んで南北は冷戦に閉じ込められ、70年以上を送らなければなりませんでした。
平和と共存のための努力は冷戦秩序に圧倒されて何度も挫折し、朝鮮半島の冬は終わらないように思えました。
しかし、私たちは依然として平和を愛していました。
先の平昌冬季オリンピックの過酷な寒さの中で朝鮮半島の平和は始まり、朝鮮半島の春は近づいています。
スウェーデンの国民詩人でありノーベル文学賞受賞者でもあるトランストロンメルの詩は、今日の私たちを励ましてくれているようです。
「冬は厳しかったが、今、夏が来て、大地は我々がまっすぐに歩くことを願う」
トランストロンメルが歌ったように、朝鮮半島に暖かい季節が来ています。
私たちは、国際社会の信頼を裏切らないために、常にまっすぐに朝鮮半島の平和に向かって歩いて行くでしょう。
過去70年間、共にあってくださったように、スウェーデンの国民が共に歩いてくださることを期待します。
ご傾聴いただきましてありがとうございます。
タック ソ ミュッケッ(ありがとうございます。)
【参考動画】