画像出典:青瓦台
2019年8月15日、忠清南道天安の独立記念館で開催された「第74回光復節慶祝式」にて文在寅大統領が祝辞を述べました。その内容を全文和訳してご紹介します。
全文和訳はこちらです↓↓
尊敬する国民の皆さん、
独立有功者と遺族の皆さん、
在外・海外同胞の皆さん。
3.1独立運動と臨時政府樹立100年を迎える今年、光復74周年記念式を特別に独立記念館で行うことになり、非常に意義深く思います。
今日の大韓民国は、いかなる苦難を前にしてもくじけず、放棄しなかった独立先烈たちの強靭な精神が作り出したものです。
「三角山が起き上がって舞い踊り、漢江の水が逆さになってほとばしるその日」を渇望しながら、すべてを捧げた先烈たちの熱い精神は、この瞬間にも国民の胸に息づいています。
私は今日、独立先烈と有功者、遺族の方々に深い敬意を表しつつ、光復のあの日にあふれる思いで建設しようとした国、そして今日、私たちがその意を引き継いで作ろうとする国を、国民と一緒に描いてみたいと思います。
私たちが望む国は「共に豊かに暮らす国」、誰もが公正な機会を持ち、失敗してももう一度立ち上がれる国です。
私たちが望む国は、莞島(ワンド、全羅南道の島)の村の少女が蔚山(ウルサン、慶尚南道の広域市)で水素産業を学び、南浦(ナムポ、北朝鮮平安南道の港湾都市)で創業して、モンゴルとシベリアにエコカーを輸出する国です。
会寧(フェリョン、北朝鮮咸鏡北道の町)で育った少年が釜山で海洋学校を卒業し、ASEANとインド洋、南米のチリまで(行く)コンテナを積んだ船の航海士になる国です。
農業を専攻した青年がアムール川のほとりで南と北、ロシアの農民たちと大規模な大豆農業をし、青年の弟が瑞山(スサン、忠清南道の市)で兄の豆を使って牛を育てる国です。
豆満江を渡って大陸へ、太平洋を越えてASEANやインドへと、私たちの生活と想像力が広がっていく国です。
私たちの経済活動領域が朝鮮半島の南側を抜け出し、近隣諸国と協力しながら共に繁栄する国です。
「溶鉱炉に火をつけろ。新しい国の心臓に鉄線を差し込み鉄筋をめぐらし鉄板を広げよう。セメントと鉄と希望の上に誰も揺るがすことができない新しい国を建てていこう」
解放直後、ある詩人は光復を迎えた新しい国の夢をこのように歌いました。
「誰も揺るがすことができない新しい国」、外勢の侵略と支配から脱した新生独立国が持つべき当然の夢でした。
そして74年が経った今、私たちは、世界6大製造強国、世界6大輸出強国の堂々たる経済力を備えるようになりました。
国民所得3万ドル時代を開き、金九先生が願った文化国家の夢も実現しつつあります。
しかし「誰も揺るがすことができない国」は、まだ実現していません。
まだ私達が十分に強くなく、まだ私達が分断されているからです。
私は今日、いかなる危機にも毅然として対処してきた国民のことを思いながら、私たちが作りたい国、「誰も揺るがすことができない国」をもう一度、胸に誓います。
尊敬する国民の皆さん。
私たちは、自由貿易秩序に基づき、半導体・IT・バイオなど私たちが得意とする産業に集中することができました。
国際分業体系の中で、どんな国でも自分の強みを前面に出し、成功を夢見ることができました。
近代化のプロセスで取り残された東アジアは、分業と協業により、再び経済発展を成し遂げました。
世界は「東アジアの奇跡」と呼びました。
侵略と紛争の時間が無くはありませんでしたが、東アジアにはこれよりも遥かに長い交流と交易の歴史があります。
青銅器文化から現代文明に至るまで、東アジアは互いに伝播し共有しました。
人類歴史で最も長い交流と協力が行われ、一緒に文明の発展を成し遂げました。
光復は、私たちだけに喜ばしい日ではありませんでした。
日清戦争と日露戦争、満州事変と日中戦争、太平洋戦争まで、60年間の長い長い戦争が終わった日であり、東アジアの光復の日でした。
日本の国民もまた、軍国主義の抑圧から脱し、侵略戦争から解放されました。
私たちは過去にとどまらず、日本との安全保障・経済協力を続けてきました。
日本と共に日本植民地時代の被害者の苦痛を実質的に癒そうとし、歴史を鏡としながら固く手をつなごうという立場を堅持してきました。
過去を省察することは、過去にしがみつくことではなく、過去を乗り越えて未来に進むことです。
日本が、隣国に不幸を与えた過去を省察する中で、東アジアの平和と繁栄を共に率いていくことを私たちは望みます。
協力してこそ共に発展し、発展が持続可能です。
世界は、高度の分業体系を通じて共同繁栄を成してきました。
日本経済も、自由貿易の秩序の中で分業しながら発展してきました。
国際分業体系の中で、どんな国であれ自国が優位にある分野を武器化するなら、平和な自由貿易秩序は崩壊するしかありません。
先に成長した国が、後から成長する国のはしごを蹴飛ばしてはなりません。
今からでも日本が対話と協力の道に出て来るなら、私たちは喜んで手を取るでしょう。
公正に交易し協力する東アジアを共に作っていくでしょう。
昨年の平昌冬季オリンピックに続き、来年には東京オリンピック、2022年には北京冬季オリンピックが開かれます。
オリンピック史上初めて迎える東アジアリレーオリンピックです。
東アジアが友好と協力の土台をしっかり固め、共同繁栄の道へと進む絶好の機会です。
世界の人々が平昌で「平和の朝鮮半島」を見たように、東京オリンピックで友好と協力の希望を持てるようになることを望みます。
私たちは、東アジアの未来世代が協力を通じた繁栄を体験できるよう、私たちに与えられた責任を果たすでしょう。
尊敬する国民の皆さん。
今日の私たちは、過去の私たちではありません。
今日の大韓民国は、数多くの挑戦と試練を克服し、より強くなり、成熟した大韓民国です。
私は今日、「誰も揺るがすことができない国」、私たちが作りたい「新しい朝鮮半島」のため、3つの目標を提示します。
第一に、責任ある経済強国として、自由貿易の秩序を守り、東アジアの平等な協力をリードしていきます。
私たちの国民が奇跡のように成し遂げた経済発展の成果と底力は、分け与えることはあっても奪われることはありません。
経済で主権がしっかりしているとき、私たちは私たちの運命の主人であり、揺るぐことはありません。
統合された国民の力は危機をチャンスに変え、挑戦は私たちをより強く大きくしました。
私たちは中東の熱砂も太平洋の波も恐れることなく、経済を成長させました。
軽工業、重化学工業、情報通信産業を順々に育成し、世界的なIT強国になりました。
今では、5Gなど世界の技術標準をリードする国になりました。
今まで私たちは先進国を追いかけてきましたが、今では先んじてチャレンジし、リードする経済に生まれ変わっています。
日本の不当な輸出規制に対抗し、私たちは責任ある経済強国への道をコツコツと歩いていくでしょう。
私たちの経済構造を、包容と共生の生態系へと変化させていきます。
大中小の企業と労使の共生協力により、素材・部品・装備(装置と設備)産業の競争力強化に力を注いでいきます。
科学者と技術者のチャレンジを応援し、失敗を尊重し、誰も揺るがすことができない経済を作っていきます。
私たちの不足さを省察しながらも自らを卑下することなく励まし合っていくとき、私たちはやり遂げられると信じます。
私たちは経済力に見合った責任を持ち、より大きく協力し、より広く開放して、隣国と共に成長するでしょう。
第二に、大陸と海洋を一つにしながら、平和と繁栄をリードする橋梁国になります。
地政学的に4大強国に囲まれている国は、世界でもわが国しかありません。
私たちが貧弱で力が無かったとき、朝鮮半島は大陸にあっても海洋にあっても辺境で、ときには強大国同士の競り合いの場になりました。
それが、私たちが経験した過去の歴史でした。
しかし私たちが力を持つなら、大陸と海洋を結ぶ国、北東アジアの平和と繁栄の秩序をリードする国になれます。
私たちは、地政学的な位置を私たちの強みに変えなければなりません。
これ以上他人に振り回されず主導していくという明確な目標を持たなければなりません。
かつて臨時政府の趙素昂(チョ・ソアン)先生は、人と人、民族と民族、国と国の間の均等を主唱しました。
平和と繁栄を目指す私たちの基本精神です。
わが国の国民が日本の経済報復に成熟した対応をとっていることも、国の経済を守ろうと意志を集めながらも両国国民の友好が損なわれないことを願う、レベルの高い国民意識があるからです。
韓国政府が推進する「人間中心・共生繁栄の平和共同体」は、私たちからはじめ、朝鮮半島全体と東アジア、ひいては世界の平和・繁栄へと広げようというものです。
新北方政策は、大陸に向かって邁進する私たちの抱負です。
中国とロシアのみならず、中央アジアとヨーロッパまで協力の基盤を広げ、北東アジア鉄道共同体によって多国間協力、多国間安保の礎石を据えることです。
新南方政策は、海洋へと邁進する私たちの抱負です。
ASEAN及びインドとの関係を周辺主要国レベルに格上げし、共同繁栄の協力関係へと発展させていきます。
今年11月には、韓-ASEAN特別首脳会議と韓-メコン首脳会議が釜山で開かれます。
ASEAN及びメコン諸国との画期的な関係発展の一里塚となるでしょう。
南と北の間に断たれた鉄道と道路をつなぐことは、東アジアの平和と繁栄をリードする橋梁国へと進む第一歩です。
朝鮮半島の地・空・海に人と物流が行き来する血脈をつなぎ、南と北が大陸と海洋を自由に行き来するようになれば、朝鮮半島はユーラシアと太平洋・ASEAN・インド洋をつなぐ繁栄の基盤となるでしょう。
アジア共同体は、いずれか一つの国が主導する共同体ではなく、平等な国々の多種多様な協力が花開く共同体になるでしょう。
第三に、平和によって繁栄を成し遂げる平和経済を構築し、統一により光復を完成していきます。
分断体制を克服し、同胞のエネルギーを未来繁栄の動力として昇華させなければなりません。
平和経済は、朝鮮半島の完全な非核化のもとに北朝鮮が核ではなく経済と繁栄を選択できるよう、対話と協力を継続していくことから始まります。
南と北、アメリカは過去1年8ヶ月間、対話局面を持続しました。
最近、北朝鮮の数回にわたる懸念すべき行動にもかかわらず会話の雰囲気がぶれないことこそ、わが国政府が推進してきた朝鮮半島平和プロセスの大きな成果です。
北朝鮮の一度の挑発に朝鮮半島が激しく揺れ動いたそれ以前の状況とは、明らかに変わりました。
未だに対決をあおる勢力が国内外に少なくありませんが、わが国国民の平和への切実な熱望があったお陰で、ここまで来ることができました。
去る6月末の板門店会談以降、3回目の米朝首脳会談に向けた米朝間の実務交渉が模索されています。
おそらく、朝鮮半島の非核化と平和構築に向けた全プロセスにおいて最も重大な峠になるでしょう。
南・北・米のすべてが、米朝間の実務交渉の早期開催に集中しなければならない時です。
不満な点があったとしても、対話の場を壊したり、障壁を作って対話を難しくすることは決して望ましくありません。
不満があるなら、それも対話の場で問題を提起し、議論することです。
国民の皆さんも、対話の最後の峠を越えることができるよう、力を合わせてくれることを望みます。
この峠を越えれば、朝鮮半島の非核化がにわかに近づき、南北関係にも大きな進展があるでしょう。
経済協力が速度を増し、平和経済がはじまれば、いつの日か自然に統一が目の前の現実になるでしょう。
IMFは、韓国が第4次産業革命をリードしながら、2024年ごろに1人当たり国民所得が4万ドルを突破すると推定しています。
ここに南と北の力を合わせるなら、それぞれの体制を維持しながらも8千万人の単一市場を作ることができます。
朝鮮半島が統一までされるなら、世界経済6位になると予測しています。
2050年ごろには国民所得7〜8万ドル時代が可能との国内外の研究結果も発表されています。
平和と統一による経済的利益が非常に大きいことは明らかです。
南と北の企業にも新たな市場と機会が開かれます。
南と北の双方が、莫大な国防費のみならず、「コリアディスカウント」という無形の分断費用を減らすことができます。
今、私たちが経験している低成長、少子高齢化の答えも見つかるでしょう。
しかし何よりも、光復のあの日のように、わが民族の心に芽生える希望と情熱が重要です。
希望と情熱以上に大きな経済成長の動力はないでしょう。
釜山からはじまり、蔚山と浦項、東海と江陵、束草、元山と羅津、先鋒につながる環東海(日本海)経済は、”ウラジオストクを通じた大陸経済”、”北極航路と日本を結ぶ海洋経済”へと進展していくでしょう。
麗水と木浦からはじまり、群山・仁川、海州と南浦、新義州に向かう環黄海経済は、全羅南道のブルーエコノミー、セマングムの再生可能エネルギー新産業と開城工業団地・南浦・新義州へとつながる先端産業団地の育成により、中国・ASEAN・インドに向かう壮大な経済戦略を完成するでしょう。
北朝鮮も経済建設総路線へと国家政策を転換し、市場経済の導入が行われています。
国際社会も、北朝鮮が核を放棄するなら経済成長を助けようと約束しています。
北朝鮮を一方的に助けようというのではありません。
互いの体制の安全を確保しながら、南北相互の利益になるようにしようというもので、共に豊かに生きようということです。
世界経済の発展に南北が共に貢献しようということです。
平和経済を通じ、わが国経済の新成長動力を作っていきます。
私たちの力をこれ以上分断に消耗することはできません。
平和経済に私たちが持てるすべてを注ぎ込み、「新たな朝鮮半島」の扉をいっぱいに開け放ちます。
南と北が手をつなぎ、朝鮮半島の運命を主導しようという意志を持つなら、可能なことです。
分断を克服したとき初めて私たちの光復は完成し、誰も揺るがすことができない国になるでしょう。
「北朝鮮がミサイルを発射しているのに、なにが平和経済か」と言う人がいます。
しかし、私たちはより強力な防衛力を保有しています。
私たちは鋭意注視しながら朝鮮半島の緊張が高まらないよう管理に万全を期していますが、それもまた究極の目標は対決ではなく、対話にあります。
米国が北朝鮮と動揺することなく対話を続け、日本もまた北朝鮮との対話を推進している現実を直視するようお願いします。
理念に捕われた独りぼっちにならないようお願いします。
韓国国民の団結した力が必ず必要です。
国民の皆さんには心を一つにしてくれるようお願いします。
尊敬する国民の皆さん、
独立有功者と遺族の皆さん、
海外同胞の皆さん。
私は今日の光復節を迎え、任期内に非核化と平和体制を確固たるものにすることを誓います。
その土台の上で平和経済をスタートし、統一に向かって進んでいきます。
北朝鮮と一緒に「平和の春」に撒いた種が「繁栄の木」に育っていけるよう、対話と協力を発展させていきます。
2032年にソウル・平壌共同オリンピックを成功裏に開催し、2045年の光復100周年までには平和と統一で一つになった国(One Korea)として世界にそびえ立つことができるよう、その基盤を堅く押し固めることを約束します。
臨時政府が「大韓民国」という国号と共に「民主共和国」を宣布してから100年が過ぎました。
私たちは100年の間省察し、成熟しました。
今ではどんな危機も乗り越えられるほど自信を持つようになり、平和と繁栄の朝鮮半島を達成していく国民的な力が高まりました。
私たちは「誰も揺るがすことができない国」を作ることができます。
南岡 李昇薫(ナムガン イ・スンフン)先生の言葉を思い出してみましょう。
「私は、種が地中に入って重い土を押し上げて芽吹いてくるとき、自らの力で押し上げるのであって、他人の力で押し上げるのを見たことがない。」
私たちの力で分断を超え、平和と統一に進む道が、責任ある経済強国への近道です。
私たちが日本を飛び越える道であり、日本を東アジア協力の秩序へと導く道です。
朝鮮半島と東アジア、世界の平和と繁栄をリードする「新しい朝鮮半島」が私たちを待っています。
私たちにはできます。
ありがとうございました。
【関連動画】