“日韓関係解決策のための立法提案に対する所感”
過ぎし1年を振り返り、新たな1年を準備する季節です。真冬の寒さが加わる時節ですので、常に健康にお気をつけください。
私は去る12月18日、「記憶・和解・未来財団法案」と「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等の支援に関する特別法一部改正法律案」を代表発議しました。強制動員被害者が切に求めてきた被害賠償問題を実質的に解決すると同時に、悪化の一途を辿る日韓関係に突破口を開き、未来志向の関係へと進んでいける基盤を築くためです。
□ “ムン・ヒサン案” の法制化プロセス、誤解と曲解が残念
これらの法制化の動きに関し、いろいろな懸念の声があります。これについては、発議前後の過程において十分に熟知しています。しかし法制化する至難のプロセスとその背景、善意を誤解し曲解する部分については、残念な思いを禁じ得ません。特に、早稲田大学の演説文といくつかのインタビュー、議長秘書室の説明会でもたびたび説明と釈明をしたにもかかわらず、これらの誤解と曲解がますますエスカレートしていますので、もう一度今日、私の所感と立場をお話しします。
□ 日本の謝罪が前提、早稲田大学学生の前で何度も強調
単刀直入にお話ししますと、先ず “ムン・ヒサン案” は “日本の心からの謝罪” を前提とした法です。日本の心からの謝罪がいかに重要なものであるか、すでに早稲田大学での演説文全体の3分の2を割いて強調しました。ドイツとフランスが結んだエリゼ条約を説明し、加害国であるドイツの心からの謝罪を例に挙げました。金大中-小渕宣言の核心も、日本の首相の “痛切な反省と心からの謝罪” だということを強調しました。
日本の大学生の前で、キム・ボクトン ハルモニ(おばあさん)は、亡くなる瞬間まで「お金が問題ではない。私たちは、100億ではなく1000億もらっても歴史を変えることはできない」と絶叫したし、ハルモニが望んだのは、ひたすら “心からの謝罪の一言” だったと力説しました。演説文の全文は、いつでもインターネットから確認することができます。
□ 日本の謝罪は首脳会談の合意文で扱う政治的宣言、
国内法の法案内容に盛り込めないため、提案説明で明文化
現在いくつかの市民団体から出されている、 “ムン・ヒサン案” には日本の謝罪が抜けているという指摘には同意できません。日本の謝罪は政治的なものとして、首脳間の合意と宣言に盛り込むべきものであり、韓国の国内法には明文化できない部分です。このため、そのような部分を「記憶・和解・未来財団法案」の提案説明で明確にしました。
『“今世紀の日韓両国の関係を振り返り、日本が過去の一時期、植民地支配によって韓国国民に多大な損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け入れ、これに対して痛切な反省と心からの謝罪をした" という日本政府の反省・謝罪の意を再確認しつつ...(中略)』
このように、日本の謝罪を法案の本文内には明文化できないのですが、すでに法案をなぜ作るのかという提案理由とその文章の中に入っているのです。つまり、日韓首脳間で行われた「金大中-小渕共同宣言」を再確認する、両首脳間の謝罪と、それに伴う許しがなければ、この法も存在意義がなく、推進されもしないということを意味します。
□ “ムン・ヒサン案” の発議は完成ではなく、始まりに過ぎない、
修正可能であり、中断され得るもの
第二に、“ムン・ヒサン案” は発議段階であり、完成ではなく始まりに過ぎません。両国の対話と和解協力の糸口をつかむ触媒になることが目的です。今回の “ムン・ヒサン案” は、今やっと発議されたばかりです。完成ではなく始まりに過ぎません。この法律が現在の内容のまま100%通過するとは信じ難い状況です。先にお話ししましたように、日韓首脳会談で合意できるのか、合意できるのならどんな内容なのかによって、この法案の推進動力が決定されるでしょう。それでも、この法案の発議自体が、日韓両国の対話と議論を触発するきっかけになっていると思います。
法案の議論が始まる場合、常任委員会と法制司法委員会などいくつかのプロセスにより、十分に国民の意思を反映できるでしょう。発議のプロセスにおいても、議員たちに負担をかけないため、一日だけ共同発議を受け、13人の国会議員に参加していただきました。個人的には、遠く日韓両国の未来を見つめ、目の前の不利益を甘受しようという、非常に勇気ある方々だと思います。法案に反対する方は、共同発議者の方々に抗議するのではなく、代表発議者である私に抗議して下さるよう切に望みます。
□ 日韓関係を放置するのは未来に対する無責任、
非難は政界を引退する者が担うべきと考えて
発議について悩み、準備していた段階で、早稲田大学の演説依頼が入りました。私に対する日本の険悪な雰囲気もよく知っていましたし、日本でこの構想を公的に明らかにした場合、取り返しがつかないということもよく知っていました。このような理由から、周辺の多くの方々が訪日そのものに反対したり、この構想を国会議長がしゃしゃり出て発議する必要はない、と助言したりもしました。
その通りです。外交関係の最大の責任は政府です。そのため、ある意味で国会議長である私があえて今回の “ムン・ヒサン案” を出さなくても構いません。しかし、両国政府が衝突を繰り返すだけで一歩も歩み寄れない状況の中、議会の長としてできることならどんなことでもしなければなりませんでした。日韓関係をこのまま放置することは未来に対する無責任だという言葉を痛感し、どんな非難も甘受しようと思いました。
もう、国会議長の任期を終える5カ月後には、私は政界を引退する人間なので、すべての欲を捨てて行うことができました。このような考えを既に早稲田大学の講演でも、率直に「両国国民の認識レベルに及ばず、双方から非難されるかもしれないが、誰かが提案しなければならず、それが私の責務」とお話ししました。
□ 支援団体・市民団体だけが被害者を代弁するのではなく、
被害者と遺族団体という直接当事者の立場にも耳を傾けるべき
第三に、被害者の立場と意見を反映していないという主張は、半分は本当で半分はそうではありません。法案の発議前に、複数の被害者および支援団体関係者に会い、意見を聞きました。その中には法案発議に反対する意見もありましたが、積極的に支持し、法案の提出を急いでほしいという声も多かったのです。慰安婦被害者側からは、法案から除外してほしいという要請があり、最終的な法案に反映しました。和解癒し財団の60億ウォンの部分も、当然ながら削除しました。
一方、39の強制徴用被害者団体が法案を積極的に支持するという請願書を提出したりもしました。発議後には、被害者および遺族約1万1千人が法案可決を促す連帯署名を行い、国会政論館で記者会見を開いて、私に直接、署名名簿を提出しました。それらの方々は「一日も早くムン・ヒサン議長の法案が国会を通過し、被害当時者が死ぬ前に実質的な支援が実現されなければならない」と訴えました。これらの方々は「私たちが本当の被害者であり遺族なのに、なぜ支援団体と市民団体が私たちの権利を妨害するのか」と主張しています。一部の原則的な主張を先立てる団体は、そのような方々の切なる声にも耳を傾けるべきでしょう。
□ 100年前とは違い、韓国の国力は強く、
国が乗り出し、まずは被害者を助けるよう措置すべき時期
第四に、日本の明示的な謝罪がないのに、なぜ私たちが先に和解を提案するのかという批判があります。共感します。私もまた、加害国が動かない状況の中、被害国が先んじて和解を提案することへの批判があることをよく知っています。加害国の犯罪事実および責任認定、公式謝罪、再発防止措置等が行われてこそ真の和解になり得るという点も、よく知っています。しかし、新しい和解の枠組みを私たち自身が作ってみようと提案したものであり、日本の謝罪を免除しようというものではありません。
今年は、上海臨時政府樹立100周年を迎える年です。援助を受けた国から援助を与える国に成長した今、国を奪われ、国民を苦痛に陥れた歴史に対する国の責任は否定できないと思います。高まった国のレベルに合わせ、強制動員被害者問題の解決にも私たちが積極的に乗り出すべき時です。
□ 最高裁判決を尊重するという前提の下に作られた方策
第五に、今回の法案が最高裁の判決結果を無力化するという指摘が出ていますが、全くそうではありません。三権分立に基づき、独立した憲法機関である立法府は、司法府の判断を尊重しない訳にはいきません。この法案は、最高裁判決の尊重を前提としています。財団が被告である日本企業に代わって代位弁済を行って、民法上の和解が成立したものと見るため、求償権は財団に残っているのです。代位権を行使するということ自体、債権を認定する、すなわち最高裁の判決を尊重することを意味します。したがって、日本企業の責任が消滅するのではありません。結論として今回の解決策は、法律構造上、最高裁の判決を尊重するという前提の下に可能な方策です。
このまま最高裁の判決どおりに実施され、原告である被害者の要請により、裁判所に差し押さえられた加害企業の資産の現金化措置が実行されれば、日韓関係がほぼ回復不可能な状況に陥る可能性を考慮しない訳にはいきません。国内法で外国投資企業の資産を没収することによる国際社会の支持喪失の可能性、両国企業と国民の被害、嫌韓に悩まされる日本国内の在日韓国人、現金化措置による現在の韓国国民の被害などが、深刻に懸念される状況です。したがって、最高裁の判断の趣旨は受け入れるけれども、債権者代位弁済を通じた和解を導き、被害者に対する実質的な支援ができるようにしたものです。
□ 24日の日韓首脳会談で両国国民への素晴らしいプレゼントになれば
外交は可能性の芸術であり、政治は生き物だと言われます。お互いの原則と感情だけを先立たせるなら、外交も政治も取り返しのつかない終着点に到達するでしょう。
24日の日韓首脳会談で対話と和解協力の糸口をつかみ、早急に文在寅大統領と安倍首相が「新21世紀日韓パートナーシップ宣言」を行うよう望みます。1. 国交正常化にけじめをつけた1965年の日韓請求権協定と1998年の金大中-小渕宣言を再確認し、2. 日本によるホワイト国からの韓国排除ならびに韓国によるGsomia終了措置を原状回復し、3. 両国間の強制徴用被害者問題などの懸案について立法を通じて解決策を探るという、「文在寅-安倍宣言」が実現されるよう望みます。
今すぐ今回(の首脳会談で)実現するとすれば、両国国民への素晴らしいクリスマスプレゼントになるでしょう。とりとめのない長文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2019年12月22日
国会議長 ムン・ヒサン
<希望通信159号>