コ・イルソク
承認2020.05.11 15:16
|裁判の争点、“監察終結権は誰にあるのか”
|検察の根拠 “大統領秘書室職制”は監察班の権限を制限するためのもの
|検察側主張は簡単に無惨に崩れる...裁判長も加勢
チョ・グク前法相の本格的な裁判が始まった。チョ前法相に提起された合計12個の容疑のうち「ユ・ジェス監察もみ消しの件」が最初の事件として審理された。検察は、チョ前民情首席とペク・ウォンウ前民情秘書官、パク・ヒョンチョル前反腐敗秘書官に “職権乱用による権利行使妨害” 容疑を主張している。
検察は、監察の開始と継続および中断可否、監察後の措置は監察班の権限であり、民情首席と民情秘書官、反腐敗秘書官が監察班の権利行使を妨害したと主張し、チョ前法相側は、それがすべて民情首席の権限であり、ユ・ジェス件の処理は民情首席の権限と裁量の範囲内にあるものであり、監察班は指示に従うだけであって独自の権限はないと主張している。
すなわち、監察の継続および中断可否についての決定権が誰にあるのかというのが、この裁判の核心争点である。しかし、誰が見ても検察の主張は突拍子もないものだった。監察班は民情首席の指揮に従って監察業務を行う場所であり、これに関する最終決定権は民情首席にあることは自明であるが、検察はどんな論理と根拠によって監察班にそのような権限があると主張したのだろうか?
裁判が始まると、検察が持参したのは監察班の職制を規定した『大統領秘書室職制』第7条2項だった。この条項の内容は以下のとおりだ。
第7条(監察班)
②監察班の監察業務は、法令に違反または強制処分によらない方法で不正諜報を収集もしくは事実関係を確認することに限定し、捜査が必要と判断されれば当該捜査機関に捜査を依頼または移牒する。
検察は、この条項の “捜査が必要と判断されれば当該捜査機関に捜査を依頼または移牒する。"という部分を根拠に ”捜査が必要かどうかの判断“ と ”当該捜査機関に捜査を依頼または移牒する行為“ の主体を監察班であると見た。したがって、ユ・ジェス監察件に対する捜査の必要性を判断しなければならない監察班の権利行使を妨害したというものだ。
これにより検察は、初公判に証人として出廷したイ・インゴル前監察班長に対し、権利の有無は当然のことと見なして問わないまま、監察が中断された背景だけを集中的に尋ね、イ前班長もこれ応じて「政権の実力者たちの介入によって中断され、これに対して本人と監察班員は非常に腹が立った」と証言した。
しかし、これは検察のどうしようもないほど杓子定規な我田引水と牽強付会の結果だった。大統領秘書室職制第7号第2項の “捜査が必要と判断されれば当該捜査機関に捜査を依頼または移牒する。"の部分は、この条項が作られることになった淵源を突き詰めるなら、監察班の権限を規定したものではなく、むしろ監察班の権限を非常に具体的に制限する規定だ。
前の部分 " 監察業務は、法令に違反または強制処分によらない方法で不正諜報を収集もしくは事実関係を確認することに限定“ し、万一捜査次元の調査が必要な部分があるなら、これ以上引き留めておかずに ”当該捜査機関に捜査を依頼または移牒” しろということだ。これに対する判断は当然、監察班が所属する民情首席の権限だ。
すなわち、この条項は “監察班には捜査権と懲戒権がなく、‘不正諜報の収集’ と ‘事実関係の確認’ だけを行うことができる” ということを明確にするためのもので、監察班に民情首席の指揮範囲外にある別の権限を付与するものではないということだ。
この職制規定を新設した人物は、他でもないまさに文在寅大統領だ。文在寅大統領は、参与政府の初代民情首席に就任するやいなやこの職制規定を新設した後、「監察対象に対する不正諜報の収集と事実関係の確認調査などの監察業務のみを担当する特別監察班を公開的に透明に運営する」とし、「入手した不正諜報に対する調査も、口座追跡・召喚調査などの強制調査が難しいだけに、捜査の前段階までの任意調査に限定するが、必要な場合には当該捜査機関に捜査を依頼または移牒するもの」と述べた。
文在寅民情首席(当時)はこの条項の新設について「特別監察班の監察対象と業務範囲を大統領令に初めから規定したのは、これまで ”社稷洞チーム”、”別館チーム” などの名前で行われた監察班の権限乱用を防止し、国民の誤解を払拭しようとして方針を決めた」と説明した。 (※ “特別監察班” の名称は2018年12月24日の改定で “監察班” に改定)
このような背景を無視した検察の “大前提” は、弁護人の反対尋問によって無惨に、そして非常に簡単に崩れた。権利の有無についてイ・インゴル前班長は素直に「民情首席の権限」だと認めたのだ。(以下、中央日報「 "検事と特別監察班違う“ 初公判で検察を面と向かってとがめたチョ・グク裁判長」の記事から引用)
チョ・グク弁護人(弁)=(ユ・ジェス事件など捜査機関の移牒)民情首席が最終決定することですよね?
イ・インゴル(イ)= はい、そのようにしました。
弁 = 指示に従って移牒したので、証人の判断や決定が入るわけではないでしょう。
イ = 措置の意見を上申する時に私の判断が入るのではないですか?
弁 = 指示が降りてきて書類を伝達したら終わりでしょう。
イ = はい。
ここに裁判長まで乗り出し「民情首席が最終決定するもの」という弁護人の主張に加勢した。
裁判長(裁)= 検事さん、(特別監察班)業務はこのように行われるようです。関連規定もないですし。
検察(検)= 違います。(固有の権限を持つ)検事も決裁は受けます。
裁 = それとは違うでしょう。その構造をそのまま持ってきて話をするのは違うと思います。
検 = 大統領秘書室職制7条2項について裁判長が判断してください。
裁 = ハハハ、わかりました。判断が必要なら、勉強して判断しましょう。
また、ペク・ウォンウ前民情秘書官の弁護人は、大統領府職制規定の意味をより具体的かつ明確に明らかにした。(以下、ハンギョレ新聞「“ユ・ジェス監察中断特別監査班員が憤慨" - "監察終了は民情首席の裁量に過ぎない"」の記事から引用)
弁 その捜査と監察の隔たりの過程で基本的に大統領秘書室運営規定上捜査が必要と判断される場合には、捜査機関に依頼または移牒という規定だけがあるので、基本的に捜査してはいけないという意味でしょう?
イ 捜査してはいけない? そうです。
弁 任意捜査もしてはいけないということじゃないですか?
イ 捜査の定義を下されているんですか?
弁 諜報収集、信憑性を確認することに限定しているでしょう?
イ そう限定しています。
弁 それを超えて捜査してはいけないということでしょう?
イ そういう規定はない。ただ、捜査は捜査機関がするんです。
弁 捜査機関に依頼または移牒しなければならないんでしょう?
イ いや、ところでしきりに法令について解釈を...
弁 特別監察班には監査院のような規定はないでしょう?
イ ありません。
弁 だから民情首席秘書官の立場では多様な処理方法があるのではないか。裁量、あるでしょう?
イ 裁量はあると承知している。しかしどれだけ多様なのかは分からない。
このように検察が起訴の根拠とした大統領秘書室職制第7条2項は、かつて全能の権力機関として振る舞っていた大統領府監察班の権限を一定の範囲内に制限し、その行使も透明にするための規定であって、検察の主張のように “監察の継続および中断、そして措置に関する監察班の権限” を規定したものではなかった。
チョ・グク前法相の起訴がチョ前法相および大統領府に致命傷を与えるはずという執着に目が眩み、大統領府職制規定の趣旨すら無視したまま敢行した無理な政治的起訴ということが、初公判から、しかも検察側の最も有力な証人によって確認されたわけだ。
検察側の証人として出席したイ・インゴル前監察班長は「7月から11月の間にユン・ソクヨル検察総長や捜査ラインの検事から連絡を受けたことがあるか」というチョ前法相側弁護人の質問に「なかったと記憶しているが正確ではない」と答えた。
「あったようだが記憶が正確ではない」というなら分かるが、「なかったようだが記憶が正確ではない」というのは話にならない。ユン・ソクヨル検察総長や捜査ラインの検事から連絡が来なかったのなら、明確に「ない」と答えたはずだ。法理上、権利行使の妨害とは何の関係もない、政権有力者らの圧力があったかどうかについて検察とイ前班長が冗長な問答を繰り広げた背景を推測させる部分だ。
出典:BRIEFING